なぜ犬の外耳炎は治らないのか?原因と適切な治療法|なんよう動物病院

  • 2023年6月21日
  • 最終更新日 2023年10月17日
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こんにちは!私は愛知県で犬猫の皮膚と耳の病気の治療に力を入れている獣医師の鈴木と申します。

当院は愛知県のほぼ中央、知立市にありますが刈谷市、安城市、豊田市、岡崎市など近隣の市町村だけでなく、名古屋市、日進市、半田市、大府市、東海市、蒲郡市、豊橋市など県内の各地から多くの患者様にご来院いただいています。

 

本日は、犬の外耳炎がなぜ治らないのか、なぜ繰り返し発生してしまうのかについて解説させていただきます。多くの飼い主様が抱える問題の一つである外耳炎について、その理解を深め、うまく対処する手助けができればと思います。

犬の外耳炎ってどんな病気?

外耳炎とは耳の入り口から鼓膜までの外耳に発生する炎症のことで、犬や猫ではよく見られる代表的な病気の一つです。

外耳炎には急性外耳炎と慢性外耳炎があります。急性外耳炎は発症から1〜2週間の外耳炎で耳の赤みや耳道の腫れ、耳垢の付着などが見られます。うまく治らない急性外耳炎は発症から1ヶ月以上経過すると慢性外耳炎となり耳介の皮膚が黒く変色して厚くなったり、長期間の炎症により耳道が狭窄して耳垢が排出されにくい状態になります。また慢性外耳炎の症例の中には、鼓膜が残存していても中耳炎を併発している子もいます。

こんな症状にはご注意を!

外耳炎になると耳の炎症により、痒みが出たり痛みが出たりするため、以下のような症状が見られるようになります。

・耳を床に擦り付ける

・耳の周りを四肢で引っ掻くようになる

・頭を振る

・外耳炎になっている方の耳を下にして、頭を傾ける

・耳の色の変化(初期は赤くなり、慢性化すると黒くなってきます。)

・耳の周囲の毛が抜けてくる

・耳垢が増える(黒っぽい、膿が出ているなど)

・耳から悪臭がする

・耳道が詰まることで音が聞こえにくくなる。

 

外耳炎は痒みや痛みといった何らかの症状を確実に伴いますので、動物にとっては非常にストレスがかかる疾患です。普段はおとなしい子でも、度重なる外耳炎の再発や毎回の処置での痛みから、噛み付くようになったり凶暴化してしまうこともあります。

できるだけ早く原因を特定して、適切な処置(外科手術を含みます)を実施し、QOL(生活の質)を改善してあげましょう。

外耳炎になるのはなぜ?

外耳炎になる要因は細かく分類されており、4つの要因があります。まずはこの分類についてご紹介します。

<主因(基礎的な要因)>

主因は外耳炎発症の基礎となる原因です。治らない外耳炎を管理するためには主因を特定して、管理していく必要があります。主因の治療を考える上でポイントとなるのは、外耳炎の基礎を治療することで外耳炎を完治(今後の治療が必要ない状態)まで持っていくことができるのかどうかという点です。感染症や異物であれば完治を期待することができますが、アレルギー、角化異常症などの体質による場合や内分泌失調、免疫介在性疾患などの生涯に渡って治療が必要となることが多い基礎疾患が存在する場合は根治が困難となり、基礎疾患と合わせて長期的な管理が必要となります。長期管理が必要な基礎疾患がうまくケアできていないと、「治らない外耳炎」となっていきます。

<副因・永続因(二次的な要因)>

副因は外耳炎の結果として二次的に起きる主に感染性の変化や、洗浄自体の刺激によるものです。副因の多くは、耳道の洗浄などにより完全に除去することが可能です。副因の管理も外耳炎の治療をする上で必要ですが、主因が良好に管理されるようになれば、副因の除去も容易になることが多いです。うまく治らない外耳炎ではそもそも、ここの感染コントロールもうまくいっていないことがあります。

永続因とは外耳炎が起こった後に発生する耳の構造変化で、外耳炎をより重症化させる要因となります。外耳炎の初期の持続因子としては耳道のむくみ、過剰な耳垢の堆積などがあります。これらは抗炎症薬の使用や洗浄を行うことで十分に管理が可能です。

主因の管理が不十分で初期の持続因子が適切に管理されなかった場合は、外耳炎が慢性化します。慢性化した時に見られる持続因子は、耳道の狭窄、耐性菌の持続感染、鼓膜の穿孔・変形、周囲組織の石灰化、中耳炎などです。これらは単純な内科治療では管理が困難であることが多く、外科が必要になるケースもあります。

<素因>

素因とは外耳炎が起こる前から存在し、外耳炎の発生リスクを高めるものです。素因の中には主因になりそうなものがいくつかありますが、素因単独で外耳炎が起こることはありません。よく「垂れ耳の犬だから外耳炎になると言われた」と聞きますが、「垂れ耳の子だから外耳炎にはなりやすいけど、他に直接的な原因があると考えましょう」が正解です。

日常的な診療の中でみる機会が多い素因は、耳の形態的な問題(細い耳道、耳道内の過剰な被毛、垂れた耳介など)、湿った環境(夏場、水泳、過剰なグルーミングなど)、ポリープの存在、他の病気(肝臓病や腎臓病など)などがあります。

どうして外耳炎は繰り返すのか?

外耳炎が治らない最も大きな原因は、「その外耳炎がなんで発生しているのか?」をしっかりと判定していないまま、治療に入っていることにあります。

よくあるパターンとしては「病院で耳を見てもらったら、赤くて耳垢が溜まっていました。マラセチアと言われたので洗浄してもらって、お薬をもらいました。薬を使っている間は良かったけど、やめたら悪化しました。全然治りません。」これですね。

これは、「二次的な要因のマラセチア増殖」と「永続因の耳垢の堆積・浮腫」に対応しただけで、主因(基礎的な要因)の探索はされていないために起こってしまう再発例です。

下の動画は外耳炎が治らないといってご来院されたわんちゃんですが、耳道内に大量のダニがいました。

外耳炎が治らない時の診断について

外耳炎の(基礎疾患の)診断には、病歴と臨床症状を合わせて判断することが重要です。

犬の外耳炎の主因で多いのは犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーなどのアレルギー性疾患と脂漏症などの角化異常に含まれる疾患です。まずは病歴の聴取(何歳から発生しているのか、季節性はあるのか、両耳or片耳、体重の変化や飲水量の変化はないか、耳以外の体調の変化はないかなど)をさせていただき、主因のリストから可能性がありそうな疾患をリストアップしていきます。

その後、各種血液検査や画像診断を行い、原因を絞り込んでいきます。

また外耳炎は主因のコントロールだけではすぐに症状を抑え込むことはできません。耳の外観や耳道内視鏡を用いての耳道と鼓膜の状態の把握、耳垢や細胞の検査による耳道内環境の評価を行い、できる限り早急に症状を鎮めてあげる必要があります。

耳道内の状態把握には耳道内視鏡が必須です。手持ちで外から見る耳鏡では、手前の方は見えても鼓膜まで観察することはできません。もし仮に耳の奥に異物が入り込んでいたり、鼓膜に毛が刺さっていたりすると、それに気づかずに洗浄液を注入して耳を揉むことにより状況が悪化することも考えられます。

フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は、頭蓋骨の形の影響で非常に耳道が細くなっています。そのため、狭窄した部位に自分の毛が挟まったり、耳垢が詰まってしまうことがあります。そうなると直接鼓膜の確認が困難となってしまうため、事前にCT検査やMRI検査を受けていただき、鼓膜の奥・中耳内の評価を行うことがあります。

外耳炎の治療について

外耳炎の治療の極意は「徹底的な洗浄」です。主因がなんであれ、治らない外耳炎の多くは二次的な感染を起こしていたり、大量の耳垢が耳道内を占拠しています。

そのため、まずはこれらの邪魔なものを完全に除去する必要がありますが、これには治療をスムーズに行うための3ステップがあります。

1、耳道の確保

耳道が開いており奥まで確認できる時はそのまま洗浄を行うことが可能です。すでに重度の炎症により耳道が狭窄している場合には、内服薬や点耳薬を用いて耳道の炎症を軽減させ、狭窄している耳道を開かせる必要があります。

2、耳道の洗浄

基本的には鼓膜の手前(場合によっては鼓膜の奥まで)まで完全に汚れを取り去る必要があるため、全身麻酔が必須となります。耳の穴から洗浄液を入れて揉んだだけではほとんどの場合、奥の耳垢や細菌は残ったままとなっており、根本的な解決にはなりません。

長期間の炎症が起こっている耳では一度耳垢を洗浄で除去しても、またすぐに新しい耳垢が分泌されやすい環境となっています。そのため、お薬を使って外耳炎をケアしつつ、耳垢が分泌されなくなるまで上記の洗浄を繰り返す必要があります。

※下の写真をクリックすると、動画が再生されます。

3、外耳炎の再発予防

徹底的な洗浄により耳道内の清浄化が達成されたら、ここからは主因に対して治療を行い、再発を予防することが重要です。

例えば犬アトピー性皮膚炎が原因の場合は、症状が出やすい季節になると一度外耳炎を改善させてもかなりの確率で悪化します。それを防ぐためにあらかじめ症状がない時期でも週1回など定期的に点耳薬を使用するプロアクティブ療法を行うことで、炎症のごく初期に治療ができるため本格的な炎症が起きずに管理することができます。

また内分泌疾患や免疫疾患が基礎疾患として存在する場合は、それぞれに対応する内服薬を用いることで症状の再発を防ぐことができます。

どうしても外耳炎がコントロールできない場合には?

ここまでご紹介してきた治療を用いても耳道の狭窄が酷すぎる場合や、すでに耳道が骨のように固くなってしまっていると内科治療には反応しないことがあります。こうした症例では残念ですが、外科手術により耳道の一部もしくは全部を摘出することで痒みや痛みといった不快感から解放してあげることができます。

ただし、こういった外科手術は合併症も多く、特に全耳道切除術では永久に聴覚が失われてしまいますので、本当の最終手段と考えてください。

まとめ

いかがでしたか?

今回は治らない外耳炎をどのように診断・治療まで結びつけていくかについて解説しました。慢性外耳炎では人の医療では耳道内視鏡を用いた治療が当たり前になっていますが、まだまだ動物医療においてはスコープを使用している病院はわずかであり、今回ご紹介したような「鼓膜前まで徹底的に洗浄する」ことができる施設は多くありません。

外耳炎が治らない時には主因の探索と耳道内の汚れや感染をいかに除去できるかがポイントとなります。

このような処置は耳道内視鏡を持っていないと実施ができないため、外耳炎が治らない場合にはまずは設備が整っている病院で耳道を確認してもらうことから始めましょう!

 

当院では皮膚科・耳科の特別診療を行っております。

犬・猫の治らない皮膚病や外耳炎でお困りの飼い主様は、一度ご相談ください!

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