犬の皮膚の肥満細胞腫の症状と治療について|獣医師が解説

  • 2022年11月28日
  • 最終更新日 2023年10月17日
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愛知県知立市のなんよう動物病院の院長鈴木です。

当院は愛知県のほぼ中央、知立市にありますが刈谷市、安城市、豊田市、岡崎市など近隣の市町村だけでなく、名古屋市、日進市、半田市、大府市、東海市、蒲郡市、豊橋市など県内の各地から多くの患者様にご来院いただいています。

今回は、犬の皮膚肥満細胞腫の症状と原因、当院での治療について説明をさせていただきます。

<肥満細胞腫とは>

そもそも「肥満細胞」とはなんぞや?という疑問がありますね。これは英語名が「Mast Cell」というところから来ており、肥満とは一切関係ありません。肥満細胞は細胞内に顆粒を豊富に含んでおり、ヒスタミン(アレルギー反応などで放出される物質)等の物質が放出します。この肥満細胞から放出される物質により、炎症や免疫反応が始まります。この肥満細胞が腫瘍性に増殖したものが肥満細胞腫です。

犬の肥満細胞腫はほとんどの場合が皮膚に発生し、その他の部分に発生することは稀とされています。消化管や粘膜に発生することもありますが、その場合の予後は非常に悪いことが知られています。

 

<肥満細胞腫の症状>

肥満細胞腫のさまざまで、一つだけポツンとできているものから多発するもの、硬いものから柔らかいものまであります。肥満細胞腫は外からの刺激により、ヒスタミンを放出することで周囲の血管が拡張することで血流が増加し、しこりの周囲が赤く見えることがあります。また、放出されたヒスタミンが全身の血圧低下といったショック症状を引き起こすこともあります。

また肥満細胞腫の特徴として、一度縮んだしこりがまた大きくなるといったサイズの変化を繰り返すということがあります。

 

<肥満細胞腫が疑われる場合の検査>

しこりから針で細胞を吸引し、どんな細胞が増えているかを顕微鏡で見ます。肥満細胞腫だけではなく、皮膚にしこりがある場合にはいずれの場合でも、実施する検査です。

肥満細胞腫と診断された場合は、近傍のリンパ節の針生検、胸部・腹部の画像診断を行い、転移病変があるかどうかを評価する必要があります。

 

<知立市のなんよう動物病院の肥満細胞腫治療>

当院では以下の条件によって、治療方針を検討しています。

  • グレード分類予測によって高グレードが予測されている
  • 脈管内浸潤あり(血管内、リンパ管内に腫瘍細胞が侵入している)
  • リンパ節転移あり
  • 十分な切除マージンが確保できない場合
  • 外科手術や放射線療法が実施できない(麻酔がかけられない)
  • 腫瘍が多発している、全身に波及している場合

これらの条件に当てはまる場合には、抗がん剤を用いた化学療法を行っています。

条件に当てはまらず、小さい肥満細胞腫が一つだけある場合などは、外科切除を行うことで完治を目指せる場合もあります。

化学療法には分子標的薬という肥満細胞腫などの腫瘍細胞にのみ強く作用して増殖を止めるタイプの薬を使用しています。現在、国内で使用できる肥満細胞腫に効果があるとされている分子標的薬は2種類あります。

・イマチニブ

イマチニブはKITエクソン11という部分の遺伝子変異をもつ肥満細胞腫に対して、高い腫瘍縮小効果が見られることがわかっています。 KITの変異がない場合でも効果が見られることがありますが、非常に稀です。

・トセラニブ

トセラニブはイマチニブよりも広い抗腫瘍効果をもった分子標的薬です。複数の部位をブロックするため、KITの変異がない肥満細胞腫に対しても効果を発揮することが知られています。ただし、上記のイマチニブと比べると下痢や嘔吐といった消化器症状をはじめとする副作用が出やすいといった欠点もあります。

当院では肥満細胞腫が診断された後は、遺伝子変異検査を行い、変異があれば積極的にイマチニブの使用を提案しています。

またこれらの分子標的薬はステロイドと組み合わせて、使用することもあります。

皮膚にしこりを見つけたら、様子を見ずにとりあえず動物病院を受診しましょう!

プロの目から見て、「単なるイボだね。」で終わるかもしれませんし、「すぐに手術した方がいい!」という判断になるかもしれません。

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