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「最近、お家で過ごす時間が増えて、うちの子を撫でる時間も増えたな」と感じる飼い主様は多いのではないでしょうか。膝の上で丸くなる猫の背中を撫でたり、散歩から帰った犬の体を拭いてあげたり。何気ない日常のコミュニケーションですが、実はこの「触れ合い」こそが、病気の早期発見において何よりも強力な武器になります。
私たち獣医師からお伝えしたいのは、「飼い主様の指先は、どんな精密検査にも勝るセンサーである」ということです。
病院での診察時間は限られています。しかし、毎日一緒に過ごす飼い主様は、その子の「いつもの状態」を誰よりも知っています。「あれ、先週まではこんなところにポコッとしたものはなかったはず……」という、そのわずかな違和感。その一歩が、大切な家族の命を救うきっかけになるのです。
今回は、特にお家時間で見つけてほしい、体に隠れた「しこり(腫瘤)」について、血液内科の観点から詳しくお話ししていきます。
「しこり」と一言で言っても、その正体は千差万別です。皮膚のすぐ下にできるイボのようなものから、筋肉の奥深くにある硬い塊、あるいは「リンパ節」が腫れているものまであります。
今回のコラムで特に注目するのは、この「リンパ節の腫れ」です。
リンパ節は、体の中に侵入してきた細菌やウイルス、がん細胞などを食い止める「検問所」のような役割を果たしています。通常、リンパ節は小豆や大豆くらいの大きさで、外から触っても分かりにくいものですが、何らかの異常があると大きく腫れ上がります。
以下の場所は、体の表面から触れやすく、しこりが見つかりやすいポイントです。
顎の下(下顎リンパ節): 顔の輪郭に沿って、首の付け根あたり。
肩の前(浅頸リンパ節): 肩甲骨の前方のくぼみ付近。
脇の下(腋窩リンパ節): 前足の付け根。
股の付け根(鼠径リンパ節): 後ろ足の付け根、お腹側。
膝の裏(膝窩リンパ節): 後ろ足の膝の真裏。
これらを左右対称に触ってみてください。片方だけが大きく腫れている場合もあれば、血液のガンである「リンパ腫」などの場合は、全身のリンパ節が一斉に腫れることもあります。
もちろん、リンパ節以外にもしこりはできます。
硬さ: 石のように硬いのか、耳たぶのように柔らかいのか。
可動性: 指で押した時にコロコロと動くのか、皮膚や筋肉に癒着して動かないのか。
変化の速度: 「昨日より明らかに大きくなっている」という場合は注意が必要です。
しこりが見つかったとき、飼い主様の頭をよぎるのは「ガン(悪性腫瘍)」ではないでしょうか。
しかし、しこりの原因はそれだけではありません。大きく分けて3つの可能性が考えられます。
血液内科で最も多く扱うのが、このリンパ腫です。リンパ球という白血球の一種がガン化し、リンパ節や臓器で増殖します。
多中心型リンパ腫: 全身のリンパ節が腫れるタイプ。初期は元気そうに見えることも多いですが、病気が進行すると貧血や食欲不振が現れます。
節外型リンパ腫: 皮膚や鼻腔などにしこりを作るタイプ。
脂肪腫: 高齢の犬によく見られる良性の腫瘍。柔らかく、ゆっくり成長します。
肥満細胞腫: 「偉大なる模倣者」と呼ばれ、良性のイボのように見えて非常に悪性度が高いことがある腫瘍です。触ると赤くなったり、大きさが変わったりするのが特徴です。
軟部組織肉腫: 筋肉や結合組織から発生する悪性腫瘍。
体に傷があったり、歯周病がひどかったりすると、近くのリンパ節が細菌と戦うために腫れることがあります(反応性リンパ節腫脹)。
これは一時的なものですが、原因となっている病気の治療が必要です。
しこりを見つけたとき、最も大切なのは「パニックにならないこと」です。
まずは冷静に、以下のステップを実践してください。
「どこにあったっけ?」と後で迷わないように、メモを取りましょう。
右側か左側か。
どの関節の近くか。
複数ある場合はそのすべての場所。
定規を当てて、しこりの長径(一番長いところ)を測ってください。また、スマートフォンのカメラで、場所がわかる引きの写真と、しこりのアップの写真を撮っておきましょう。 「2週間前は1cmだったのが、今は3cmになった」といった時系列の情報は、獣医師にとって非常に重要な診断材料になります。
しこり以外に変わった様子がないか観察します。
食欲・元気: いつも通り食べているか。
体重: 急に痩せてきていないか。
発熱: 耳の付け根やお腹が熱くないか。
呼吸: 苦しそうにしていないか、咳をしないか。
「中身を出そう」として強く押したり、マッサージしたりするのは厳禁です。もしそれが悪性腫瘍(特に肥満細胞腫など)だった場合、刺激によって炎症物質が全身に放出され、ショック状態に陥ることがあります。また、細胞が周囲に散らばってしまうリスクもあります。
「しばらく様子を見てもいいのか、すぐに病院へ行くべきか」という判断基準についてお伝えします。
「しこりを見つけたなら、一度は受診する」ことを推奨しますが、特に以下の場合は、緊急性が高いと考えてください。
急速に大きくなっている: 数日でサイズが変わるものは、悪性腫瘍や激しい炎症の可能性があります。
痛みや熱を伴う: 触ると痛がる、しこり周辺が熱を持っている、または本人が高熱を出している場合。
色が悪い・自潰(じかい)している: しこりの表面が赤黒い、あるいは皮膚が破れて膿や血が出ている。
複数のリンパ節が腫れている: 顎の下と膝の後ろが同時に腫れているような場合は、リンパ腫の可能性が非常に高いです。
全身症状が出ている: ぐったりしている、何度も吐く、おしっこの量や色が異常。
リンパ腫は進行が非常に早いケースがあります。しかし、一方で「抗がん剤治療に反応しやすい」という特徴も持っています。
早く見つけて早く治療を開始すれば、それだけ苦痛を取り除き、一緒に過ごせる時間を延ばせる可能性が高まります。
診断の結果、もし血液の病気や腫瘍だった場合、どのような治療が行われるのでしょうか。近年の獣医療は進歩しており、その子に合わせた「オーダーメイド治療」が可能です。
しこりに細い針を刺して細胞を採取する「細胞診(FNA)」を行います。これは麻酔なしで短時間で終わることが多く、負担の少ない検査です。顕微鏡で細胞を見て、それが炎症なのか、良性腫瘍なのか、あるいはリンパ腫のような悪性なのかを判断します。
血液内科において、リンパ腫治療の主役となるのが抗がん剤です。血液のガンは全身をめぐるため、飲み薬や点滴で全身をカバーします。 「副作用が怖い」と思われるかもしれませんが、動物の抗がん剤治療は人間のように「フラフラになるまで攻める」のではなく、「生活の質(QOL)を維持しながら、ガンを抑える」ことに主眼を置きます。副作用をコントロールするお薬も併用し、その子が笑顔で過ごせる範囲での治療を目指します。
リンパ節以外の単発のしこり(肥満細胞腫や軟部組織肉腫など)であれば、手術による切除が第一選択となります。
手術が難しい場所にある場合や、再発を防ぐために補助的に行われることがあります。
「積極的な治療は望まないけれど、痛みや苦しみは取ってあげたい」という飼い主様のご希望に寄り添う治療です。ステロイド剤を使ってしこりを小さくしたり、痛み止めを使って穏やかに過ごせるように調整します。
「しこりを見つけてしまったら怖い」というお気持ちは、痛いほどよくわかります。病院へ行く勇気が出ないこともあるかもしれません。 しかし、しこりを見つけたということは、あなたがそれだけ熱心に、愛情を持ってその子に触れていたという証です。その気づきこそが、最善の治療のスタートラインです。
冬の寒い日、コタツの中で丸くなる猫を撫でる指。 春の陽気の中、散歩のあとに犬の体をマッサージする指。
その指先で感じる「いつもと違う」という感覚を、どうか大切にしてください。私たち動物病院は、その小さな違和感を科学的なデータと専門知識で受け止め、あなたの大切な家族が一日でも長く、健やかに過ごせるようお手伝いをさせていただきます。
もしお家時間で「あれ?」と思うものを見つけたら、まずはスマートフォンで写真を撮って、気軽に見せに来てください。何もなければ「良かったね」と一緒に笑い、何かあっても「これから一緒に頑張りましょう」と手を携える。それが、ホームドクターとしての私たちの願いです。
当院では、しこりの精密診断や、体に優しい抗がん剤治療のご相談を随時受け付けております。しこり以外にも「元気がない」「急に痩せた」などのサインがあれば、お早めにご相談ください。
愛知県知立市の動物病院 なんよう動物病院
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