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冬はお祝い事が多い季節です。クリスマス、忘年会、そしてお正月にバレンタイン。家族が集まり、食卓には豪華な食事が並びます。足元でキラキラした瞳で見つめてくる愛犬や愛猫に、「少しだけなら……」とローストチキンの皮や、脂の乗ったお刺身をお裾分けしてしまっていませんか?
その「一口」が、実は動物たちの命を脅かす恐ろしい病気「膵炎(すいえん)」の引き金になることがあります。今回は、冬に急増するこの病気について、そのメカニズムから治療、予防法まで徹底的に解説します。
膵炎を一言で表すと、「自分自身の消化液で、自分の体を溶かしてしまう病気」です。非常に強い痛みと、体力の消耗を伴います。
激しい嘔吐: 何度も繰り返し吐きます。胃液や胆汁(黄色い液)が出ることもあります。
激しい腹痛: お腹を触られるのを嫌がったり、背中を丸めてじっとしていたりします。
「祈りのポーズ」: 前足を伸ばして胸を床につけ、お尻を高く上げるポーズをとります。これはお腹の痛みを和らげようとする特徴的な姿勢です。
重度の食欲不振: 大好きなオヤツさえ見向きもしなくなります。
下痢: 泥状の便や血便が出ることがあります。
ぐったりする(虚脱): 痛みが激しく、意識が朦朧とすることもあります。
膵臓は本来、食べたものを消化するための「消化酵素」と、血糖値を調節する「インスリン」を作る重要な臓器です。通常、消化酵素は膵臓の中では働かないようにストッパーがかかっていますが、何らかの理由でそのストッパーが外れ、膵臓そのものを消化し始めてしまうのが膵炎です。
冬の食卓に並ぶご馳走は、動物たちにとって「脂肪分の塊」です。
ローストチキンの皮や脂身
霜降りの牛肉
バターたっぷりのケーキ
お正月のチャーシューや伊達巻
小型犬にとって、人間が与える「一切れの肉」は、人間が「数キロの脂身」を一度に食べるのと同じくらいの衝撃を体に与えます。急激な脂肪の摂取は膵臓に過度な負担をかけ、炎症を引き起こします。
冬は寒さで散歩の時間が減り、体重が増えがちです。肥満状態の個体は高脂血症になりやすく、膵炎の発症リスクが通常よりも格段に高くなります。
ミニチュア・シュナウザーやアメリカン・コッカー・スパニエル、テリア種などは遺伝的に脂質代謝の異常が起きやすく、膵炎になりやすい犬種として知られています。
来客が増えたり、生活リズムが乱れたりすることも、自律神経を通じて膵臓の血流を悪化させ、発症の遠因となります。
もし愛犬・愛猫が膵炎を疑う症状(何度も吐く、お腹を痛がる)を見せた場合、自宅でできる最大の対処法は「何も与えないこと」と「すぐに受診すること」です。
無理に食べさせない: 「体力をつけさせよう」と何かを食べさせると、さらに消化酵素が出て膵炎が悪化します。
水を無理に飲ませない: 嘔吐がある場合、水を飲むだけでさらに刺激になり、脱水を加速させることがあります。
市販の胃腸薬を飲ませない: 膵炎は「胃腸の荒れ」とはレベルが違う病気です。
絶食・絶水: 病院へ行くまでの間、口には何も入れさせないでください。
いつ・何を・どれだけ食べたかメモする: 「昨夜、唐揚げの皮を1枚あげた」といった情報が診断の決め手になります。
安静を保つ: 揺らしたり無理に動かしたりせず、キャリーバッグに入れて静かに搬送してください。
膵炎は「軽症」から、命に関わる「重症」まで幅がありますが、素人目には判断がつきません。以下のチェックリストに一つでも当てはまれば、迷わず受診してください。
嘔吐が1日に3回以上ある
昨日の夜から何も食べていない
お腹を触ろうとすると「ウー」と唸る、または逃げる
背中を丸めて、震えている 呼吸が浅く、ハアハア(パンティング)している
下痢が続いている、またはゼリー状の血便が出た
特に、高齢の子や持病(糖尿病や腎臓病)がある子の場合は、膵炎が引き金となって「多臓器不全」や「DIC(播種性血管内凝固症候群)」という非常に危険な状態に陥りやすいため、一刻を争います。
膵炎には「これを飲めば一発で治る」という特効薬はありません。複数のアプローチを組み合わせて、炎症が鎮まるのを待つ治療(支持療法)が中心となります。
最も重要な治療です。血管から直接水分と電解質を補給し、膵臓の血流を改善します。これにより、炎症によって生じた毒素を体外へ排出するのを助けます。
膵炎の痛みは想像を絶します。痛み自体がさらなるストレスとなり病状を悪化させるため、医療用麻薬などの強力な鎮痛剤を使用して痛みをコントロールします。
嘔吐を止め、胃腸の粘膜を保護します。
膵炎による全身の炎症を抑えるための新しいタイプのお薬(ブレンダZなど)を使用することもあります。
以前は「完全絶食」が基本でしたが、最近では「早期に低脂肪な食事を少量ずつ与えるほうが、腸のバリア機能を保ち回復が早い」という考え方が主流になっています。自分から食べられない場合は、鼻からチューブを通して栄養を入れることもあります。
私たちにとっての「美味しいご馳走」は、動物たちの小さな体にとっては「過剰な脂」という毒になり得ます。
冬の楽しいひとときを、病院のケージの中で過ごさせるのは悲しいことです。 「どうしても何かあげたい」ときは、人間用のご馳走ではなく、普段から食べ慣れている低脂肪なトリーツや、茹でたササミ(脂肪をしっかり取り除いたもの)など、動物たちの体に優しいものを用意してあげてください。
テーブルの上に食べ物を置いたままにしない(つまみ食い防止)
親戚や来客にも「食べ物を与えないで」と徹底する
「いつもと違う」と感じたら、夜間でも相談を検討する
膵炎は早期発見・早期治療ができれば、多くの場合は元気に回復できる病気です。しかし、無理をさせてしまうと取り返しのつかないことになります。
当院では膵炎のリスクを評価するための血液検査(v-LIPなど)も実施しております。肥満気味な子やシニア期の子は、ぜひ定期健診の際にご相談ください。
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