今回ご紹介する子は、もともと皮膚のセカンドオピニオンでご来院された方で皮膚はご自宅でのスキンケアのおかげでいい状態をキープできていました。
MIX犬(シー・ズー×マルチーズ)、オス、9歳齢
昨日まではいつも通り元気だったが、来院日の朝から急に元気も食欲も無くなってしまった。嘔吐を繰り返しており、おしっこが出ていない。
「急に調子が悪くなり、おしっこが出ていない」という症状でご来院された際に多くの先生方がまずイメージされるのは、
・尿管や尿道がなんらかの原因で閉塞してしまい、おしっこを出すことができない
・急性腎不全など腎臓の傷害により、そもそもおしっこが作られていない
このいずれかかなと思います。これは身体検査を行って、膀胱を触ることで尿が溜まっているかどうかを確認すれば、判別することが可能です。
今回のわんちゃんでは膀胱がパンパンに張っていたため、尿道に原因があって排尿ができていないことがわかりました。
そうなるとまずはどこに詰まっている原因があるかを特定する必要があります。今回は調子が悪くなっていたため、血液検査を行っている間にレントゲンを撮りました。
小さくて見にくいかもしれませんが、尿道先端の「陰茎骨」の部分に2つの結石がはまり混んでいるのがわかります。
同じところをエコーでも確認してみました。
エコーで見てみると尿道内にガッツリはまり込んでいるのがよくわかりますね。
このような場合、尿道の先端からカテーテルを入れて水圧をかけながら尿道に詰まった石を膀胱まで戻してから取り出すのが定石なのですが、今回ははまりかたが強く、全く動く気配がありませんでした。
そのため、今回は石が詰まっている部分よりも膀胱側の尿道が広くなっているところを切開し、皮膚に直接くっつけることで尿の排泄路を確保する「陰嚢部尿道造瘻術」と言う手術を行うことにしました。
ちなみにこの子の血液検査では炎症の値が跳ね上がっており、腎臓の数値はほとんど正常範囲から変化していませんでした。その後の尿検査で重度の細菌感染を起こしていることがわかったため体調不良の直接的な原因は、排尿ができなくなったため尿中で細菌が増殖し、細菌感染に対する炎症が起こったことだと推察しました。
今回の術式は「陰嚢部」、つまり精巣がついているところに新しい排尿路を作成するため、去勢を行う必要があります。そのため、まずは精巣と陰嚢を切除し新しい尿道を作る場所を確保します。下の写真は陰嚢の切除後に精巣を摘出しているところです。
次に尿道を切開し、そこにカテーテルを入れて膀胱まで問題なく通すことができるかを確認しています。
尿の疎通が確認できたら、最後に尿道の粘膜と皮膚を縫合していきます。この時に強く締め付け過ぎると粘膜が傷んでしまい、うまく接着してくれなくなるので慎重に縫合していきます。
手術直後の写真はこのような形になります。術後数日は尿が傷口に触れてほしくないので、カテーテルから排尿できるようにしてあります。
術後2週間ほどで抜糸を行います。抜糸後は下の写真のようになります。
外科の教科書では手術後の開口部分は収縮しやすいため、広めに傷口を作成するよう記載されています。今回は想定していたよりも傷口の収縮が少なく、十分な開口を取ることができました。
術後はこれまでと変わりなく、排尿ができているとのことでした。
今回のように尿道に詰まってしまい、どうしても石が動かない時でも本来の排尿部分とは違う場所に尿道が開くようにしてあげれば、おしっこはできるようになります。しかしできれば、このような手術が必要になる前に尿路結石のコントロールができれば、一番ですよね。
尿石症は一度、うまくコントロールできるフードが見つかったからOKではなく、定期的な尿検査を行いちゃんと結晶成分が出ていないかどうかを確認する必要があります。それは季節により飲水量などが変わることで膀胱内での結石の形成速度が変わるためです。水をがぶ飲みする暑い時期であればどんどんおしっこが作られて出ていくためあまり悪化することはありませんが、寒い冬の時期になると水を飲む量が減りおしっこが作られる量も減ります。それにより、膀胱の中でおしっこが溜まっている時間が長くなり、石ができやすくなります。
以上のような理由から当院では3ヶ月に1回のペースでの尿検査をお勧めしています。季節の変化により飲水量が変わってもその都度尿のチェックをしていくことで、知らない間に尿石症が悪化してしまうのを早期に発見することができますよね。
当院では国産、外国産ともに複数の種類の尿石対応フードを取り扱っています。なかなか療法食を食べてくれない子もお口にあうご飯が見つかるかもしれませんので、尿石症がなかなかおさまらない!という飼い主様は一度、ご相談くださいね!