犬と猫の皮膚病診療に力を入れているなんよう動物病院の鈴木です!
当院は愛知県のほぼ中央、知立市にありますが刈谷市、安城市、豊田市、岡崎市など近隣の市町村だけでなく、名古屋市、日進市、半田市、大府市、東海市、蒲郡市、豊橋市など県内の各地から多くの患者様にご来院いただいています。
今回は主に小さな猫ちゃんや高齢の犬猫で見かけるカビの代表格「皮膚糸状菌症」について、説明していきたいと思います。この病気は犬猫だけでなく、人にも感染する非常に厄介な感染症ですので、しっかり感染対策をして治療に臨みましょう!
カビの一種である皮膚糸状菌症は動物(犬、猫、人も含む)の皮膚や爪、毛などに皮膚糸状菌が侵入、増殖して発症する皮膚病です。時に被毛にだけ感染し、他の動物への感染源になる場合もあります。皮膚糸状菌の感染経路は2つあり、感染している動物から他の動物への直接感染する場合と、菌の生息する土壌や家の中の埃や家具から間接感染する場合があります。
発症は若い動物や多頭飼育の場合に多いですが、基礎疾患やステロイドなどの薬剤によって免疫が低下した状態にあると感染しやすくなります。もし飼っている犬や猫が皮膚糸状菌と診断された場合は、一緒に暮らしている赤ちゃんや高齢の方は気をつけた方がいいでしょう。
カビの仲間である皮膚糸状菌は土壌中や動物の皮膚、被毛などで繁殖しています。国内で犬や猫に感染が見られる菌種は大きく分けると3種類ほどですが、その中でもMicrosporum canis(M canis)という菌が多くの割合を占めています。
皮膚の赤みが初期症状で、次第にニキビのような白いブツブツができてきます。その後、皮膚が剥がれてくると円形の赤みを示すようになり、「リングワーム」と言われています。
皮膚の中に侵入したカビに体の免疫が勝つことができれば、カサブタやフケと一緒に排除して自然に治癒していきます。皮膚表面での排除がうまくいかず、皮膚の深部までカビが侵入した場合は炎症が慢性化し、「肉芽腫」と呼ばれるしこりを形成するようになります。
この状態になると自然治癒は困難です。
人に感染すると下の写真のように、赤い円形の湿疹ができます。
皮膚糸状菌症の診断は、まず臨床症状が重要です。同居動物やご家族に皮膚の病変があった場合は、皮膚糸状菌やヒゼンダニなどの人獣に共通して感染を起こす皮膚病を強く疑う必要があります。皮膚糸状菌症の診断に必要な検査として、皮膚掻爬検査、ウッド灯検査、毛検査、真菌培養検査、病理組織学検査があります。
・皮膚掻爬検査
皮膚糸状菌やそれ以外のカビのほか、ニキビダニやヒゼンダニなどの検査も同時に行うことができます。鋭匙(えいひ)という皮膚を引っ掻く器具を用いて、皮膚表面の角質や組織を採取します。
・ウッド灯検査
360nmの波長の紫外線を当てることでM canisの感染部位を青緑色に蛍光発色させることができます。この検査の注意点として、M canis以外の皮膚糸状菌では発色しないため、検査で陰性だったからといってカビの感染を除外できるわけではありません。
・毛検査
感染が疑われる部位の毛を抜いて、顕微鏡で観察します。被毛の周囲に分節分生子と呼ばれる菌の要素が見られると、皮膚糸状菌と診断できます。
・真菌培養検査
特殊な培地にカビが感染している毛を植えて、培地上の菌の発育や培地の色の変化を確認します。
・皮膚病理学検査
皮膚糸状菌が皮膚の表面ではなく皮膚の深部で感染を起こしている場合、皮膚を皮下の脂肪ごとくり抜くことで皮膚の中の変化を調べる必要があります。
・全身療法(内服)
皮膚糸状菌症は被毛や毛包内の感染が多く、感染が皮膚の深部まで到達している場合もあるため、広範囲の病巣全体に薬を浸透させるために、抗真菌薬の全身療法が行われることが多いです。使用される薬は脂溶性の薬剤なので、食事と一緒に内服させると吸収が良くなります。
一般的によく用いられるイトラコナゾールという薬剤は原則1日1回の使用頻度が推奨されていますが、皮膚の角質に蓄積しやすい性質を持っているため、数日に1回の投薬や週末のみの投薬といった「パルス療法」が行われることもあります。投薬期間は通常、8〜12週間ほど必要となります。
副作用として、肝臓に負荷がかかることがあり血液検査で肝酵素値の増加が見られることがあります。
治療終了の目安は、真菌培養検査を1週間ごとに行い、3週間連続で陰性となった場合は休薬します。
・外用療法
動物が舐めにくい場所の感染や感染範囲が狭い場合は、ぬり薬を使用することができます。
内服薬に比べて全身への影響が少ない一方、皮膚の深部まで浸透しにくいという欠点もあります。また、塗るときの注意点として、皮膚病変が見えるところだけでなくその周囲6cm程度まで拡大して薬を塗る必要があります。
治療終了の目安は全身療法と同様に、真菌培養検査を1週間ごとに行い、3週間連続で陰性となった場合です。
・シャンプー療法
シャンプー療法は皮膚表面を洗うことで、汚染源となる被毛やフケを除去するのが主な目的となります。抗真菌成分配合のシャンプーを用いることで一定の効果はありますが、薬剤の皮膚内の浸透はそれほど期待できません。
・毛刈り
皮膚糸状菌は被毛に感染して増殖することがあり、その場合は感染している部分を含めて広範囲(病変周囲6cmほど)に毛刈りをしてしまうことがあります。毛刈りをするとその部分はぬり薬がつけやすくなりますし、新たな感染拡大を予防することもできます。
ただし刈った後の毛にはカビがついている状態ですので、適切に処理をしないと環境を汚染してしまう可能性があり注意が必要です。毛刈り中に感染毛を飛散させないための工夫として、空調を止める、ハサミで切る、バリカンを使用するときは速度を遅くする、掃除しやすい狭い部屋で行う、などがあげられます。
・感染防御対策
皮膚糸状菌症は「人獣共通感染症」であるため、症状の有無にかかわらず飼育動物全てで検査や真菌培養を実施すべきです。
感染している動物は他の同居動物から隔離して管理しましょう。できれば隔離している部屋に入る方も1名に絞れると効果的です。
生活環境の清浄化も重要です。感染動物の抜け毛やフケは新たな感染源となります。掃除機や粘着テープを用いて、徹底的に掃除を行ってください。大量の毛やフケが付着してしまったカーペットなどは廃棄をおすすめします。洗濯可能なものは2回以上洗濯するようにしましょう。また皮膚糸状菌は熱に弱いことから、衣類乾燥機があれば乾燥機にかけてもいいでしょう。
今回は我々、一般の動物病院の獣医師が最も遭遇するカビの病気である皮膚糸状菌症について、お話しました。
皮膚糸状菌症は一度発生すると数週間にわたる治療が必要となり、同居動物やご家族への感染にも注意しなければならない非常に厄介な皮膚病です。
初期の皮膚炎と診断され、ステロイドの飲み薬や塗り薬を処方されているケースも少なくありません。若齢もしくは高齢の犬猫で治療薬をもらい投薬していても、一向に改善せず皮膚病変が増加・拡大していくようであれば、感染症を疑う必要があります。
その際には早めに動物病院で相談しましょう!
もしワンちゃん、猫ちゃんの皮膚のことで少しでも気になることがございましたら是非一度、お気軽にご相談ください!
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