【獣医師が教える!】犬の下痢の原因と適切な治療法

  • 2023年5月9日
  • 最終更新日 2023年5月17日
Pocket

知立市、刈谷市、安城市、豊田市、名古屋市のみなさんこんにちは。

愛知県知立市のなんよう動物病院の院長鈴木です。

今回は、犬の下痢について、その主な症状や原因、治療法について解説します。また、ご自宅でできる予防策や対処法についても触れていきます。わんちゃんの健康を守るために役立つ情報が満載ですので、ぜひ参考にしてください。

<目次>

1、犬の下痢とは

1-1. 下痢の症状と種類

1-2. 健康な便との違い

2、犬の下痢の原因と対策

2-1. 食事と栄養

2-2. ストレスと環境

2-3. 寄生虫の感染

2-4. ウイルス・細菌感染

2-5. 内臓疾患と免疫疾患

2-6. 体質や年齢

3、犬の下痢の治療法

3-1. 下痢をしたがすぐに治まった場合

3-2. 下痢はしているが、元気・食欲はある場合

3-3. 下痢があり、元気・食欲がなく、震えている場合

3-4. 下痢以外にも嘔吐などの症状がある場合

3-5. 便が水様、血便や黒色便が出ている場合

3-6. 慢性的な下痢の場合

4、犬の下痢予防のために飼い主ができること

4-1. 適切な食事管理

4-2. ストレスの軽減

4-3. 定期的な健康チェックとワクチン接種

4-4. 寄生虫予防の取り組み

5、まとめ

 

<犬の下痢とは>

1-1. 下痢の症状と種類

犬の下痢は、便の回数が増えたり、便の水分が多くなったり、便の形状や色が変わることを指します。健康な便は、犬の種類や年齢、食事内容などによって多少の違いはありますが、一般的には、形状が整っており、適度な硬さと湿り気があります。しかし、下痢をしている犬は、便の形状が整っていなかったり、便が柔らかすぎたり、水分が多すぎることが特徴です。

下痢は、急性と慢性に分類されます。急性下痢は、突然始まり、短期間(通常は1週間以内)で治まることが多いです。一方、慢性下痢は、2週間以上続く下痢を指します。下痢が長期間続く場合、体重の減少などにつながる可能性があります。慢性下痢の場合、病気や栄養不良、ストレスなどが原因であることが多いため、獣医師の診断が必要です。

1-2. 健康な便との違い

便の種類によっても、下痢の状態や原因が異なります。主な便の種類には以下のようなものがあります。

◯軟便

便が柔らかく、形状が崩れやすい状態です。食事の変更やストレス、過食などが原因で一時的に起こることがあります。

◯泥状便

便がさらに柔らかくなり、泥のようにベチャっとし、つかむことが出来ない状態です。消化不良や感染症、腸の炎症などが原因で起こることがあります。

◯水様便

便がほとんど水のような状態で、脱水症状のリスクが高まります。重度の消化器症状の際に見られる下痢です。動物がいきまなくてもシャーっと出てくる液状の便が主体となっています。

腸の消化吸収能力が大きく低下してしまっている場合が多いため、液状の便の中に未消化物(食べたものがそのままの形で出てくる)が混じることもあります。細菌やウイルスによる感染症、寄生虫感染、腸の機能障害などが原因で起こることがあります。

◯血便(黒色便、タール便など)

胃や十二指腸など、上部(比較的口に近い方)の消化器で出血があった際に見られる便です。

上部の消化器で出血があると、おしりから便として出てくるまでに、血が消化液で酸化を受けて黒色に近い色になってしまいます。

なお、生肉など血液を多く含む食べ物や鉄を多く含むサプリメントを与えた時には、健康であったとしても黒い便が出てくることがありますがこれは問題ありません。

◯血便(鮮血便、下血)

大腸や直腸など、下部(肛門に近いところ)で出血があった際に見られます。

上記の黒色便とは異なり、おしりのすぐ近くで起こった出血は消化液と接する時間が短いため、そのままの血の色を維持した状態で出てきます。

下血ほどの出血量になると単なる腸の異常では済まず、短時間で死亡してしまう場合もあります。

◯白色便

全体的に便が白っぽくなります。

胆嚢の障害により胆汁の分泌量が少ない場合や、膵臓の異常により消化液が十分に分泌されなかったりする場合に、消化不良となり脂肪分をたくさん含んだ便(脂肪便)が出ます。

 

<犬の下痢の原因と対策>

2-1. 食事と栄養

食事が原因で下痢を引き起こすことがあります。過食、食物アレルギーや食物不耐症、新しい食事への急激な切り替え、腐った食べ物や人間用の食べ物の摂取などが該当します。獣医学的な知見からすると、適切な栄養バランスや消化の良い食事を与えることが重要です。急激な食事の変更を避け、徐々に新しい食事に切り替えましょう。また、アレルギーや食物不耐症が疑われる場合は、原因となる食材を特定し、適切な食事に切り替える必要があります。

2-2. ストレスと環境

人間と同様に、わんちゃんもストレスが下痢の原因となることがあります。人での代表的なストレス性の下痢は、試験前や採用面接前のストレスでお腹を壊すことが知られていますね。新しい環境や家族構成の変化、他の犬との関係、飼い主の留守が長いなど、犬にとってストレスを感じる要因が様々存在します。ストレスによる下痢は、一時的なものであることが多いですが、長期間続くと犬の免疫力低下を招き、他の病気にもかかりやすくなります。また下痢の他に嘔吐、脱毛、執拗に体を舐める、血が出るほどしっぽや足先を噛むなどの行動がみられる場合があります。犬にストレスを与えない環境作りや、十分な愛情と時間をかけて接することが大切です。また、犬のストレスを軽減するために、適度な運動や遊び、リラックスできる場所の提供が効果的です。

2-3. 寄生虫の感染

下痢を引き起こす寄生虫には、回虫、鉤虫、鞭虫、コクシジウム、トリコモナス、ジアルジアなどがあります。これらの寄生虫は、犬が汚染された食べ物や水、糞便を摂取することで感染します。獣医師が処方する駆虫薬により、これらの寄生虫を駆除することができます。

◯犬回虫

犬回虫は最も診断する機会の多い消化管内寄生虫です。

人にも感染してしまう恐れがあり、注意が必要です。特に幼児においては内臓幼虫移行症の原因となるため、細心の注意を払う必要があります。

犬回虫症は通常量の感染ではほとんど無症状ですが、虫体の成長に伴って下痢や嘔吐などの消化器症状が出てくることがあります。

◯コクシジウム

コクシジウム症はコクシジウムと呼ばれるグループに属する原虫による感染症で、子犬に見られることが多い病気です。

感染しても無症状である場合が多いですが、下痢や軟便などの消化器症状がみられることもあります。

◯ジアルジア

ジアルジアは主に小腸に感染する原虫で、非常に生命力が強く、駆除を行ったとしても再感染がおこりやすい感染症です。

人をはじめとした多くの動物に感染する可能性があります。

糞便検査や糞便中の遺伝子を検出するPCR検査などにより診断されます。

2-4. ウイルス・細菌感染

犬の下痢を引き起こすウイルスや細菌には、パルボウイルス、コロナウイルス、サルモネラ菌、らせん菌(カンピロバクター菌)などがあります。これらの感染症は、汚染された環境や他の犬から感染することが多いです。らせん菌は健康な犬や猫の腸内でも検出する事ができ、ストレスや身体の免疫が低下した時に症状が起こります。細菌の起こす毒素(ガス)によって、腸粘膜が刺激されてめくれてゼリー状の便や血便、下痢が起こります。ガスが発生するのでお腹もよく鳴ります。感染症に対する予防接種や、犬の生活環境の清潔さを保つことが、ウイルスや細菌感染を予防するための対策です。

◯犬パルボウイルス

犬パルボウイルス(CPV)によって引き起こされる感染症で、混合ワクチンの接種により発症・重症化を防ぐことが出来る病気です。

子犬での報告が多い感染症ではありますが、ワクチン未接種などの成犬でも問題になることがあります。下痢や嘔吐をはじめとする重度の消化器症状のほか、白血球数が重度に減少し免疫抑制状態に陥ることもあるため、死亡率も高い怖い病気です。

◯細菌性腸炎

細菌性腸炎の一般的な症状は嘔吐や下痢、発熱で、通常は下痢止めや点滴などの対症療法により治療されます。

糞便の細胞診検査、糞便中の遺伝子を検出するPCR検査などによって原因菌の有無を確認することはできますが、これらの細菌は無症状のわんちゃんの胃腸内からも検出されることが多いため、確定診断には細菌自体の検出よりもその他の疾患をきちんと除外してあげることが重要です。

2-5. 内臓疾患と免疫疾患

膵炎、腸炎、消化管内異物、腫瘍、腎臓病、肝臓病などの内臓疾患や慢性疾患が、犬の下痢の原因となることがあります。

また、対症療法を行っても下痢や嘔吐、食欲不振などの消化器症状が長期間続いている、または再発を繰り返す場合には、慢性腸症と診断されることがあります。

慢性腸症の病態はまだ不明な点が多く、国内では柴犬でよく見られます。腸粘膜の持続的な炎症や、腸柔毛などの構造破綻が消化器症状の出現に関与していると考えられています。

一般的には食事療法やステロイド剤による治療により症状が改善されます。難治性の場合、これらの治療を行っても十分に効果が得られず、死亡に至ることもあります。

2-6. 体質や年齢

犬の体質や遺伝的な要素も、下痢を引き起こす原因となることがあります。特定の犬種には、消化器系の疾患にかかりやすい傾向があることが知られています。体質や遺伝的な要素が関与している場合、症状の管理や予防に特別な注意が必要です。獣医師と相談し、適切な食事や生活環境を整えることが大切です。

 

<犬の下痢の治療法>

3-1. 下痢をしたがすぐに治まった

 一度だけの下痢で、すぐに元の状態に戻った場合、特別な治療は通常必要ありません。多くの場合は「フードを変えたから」や「いつもと違うおやつをあげた」などの理由です。ただし、犬が快適でいられるよう、十分な水分補給を心がけ、様子を見ましょう。また、便が正常な形に戻るまではフードを少なめにして、胃腸を休めるようにした方が良いでしょう。

3-2. 下痢はしているが元気・食欲はある

 犬が下痢をしているものの、元気で食欲がある場合、まずは消化に優しい食事(病院で処方される消化器サポートフードや、ご飯と鶏肉などの低脂肪の食材で作るホームメイドの食事)を試してみましょう。それに加えて、ご飯の量を減らした方が胃腸を休めることにつながります。できれば、1日ほど絶食にした方がいいですが、空腹から嘔吐してしまうこともありますので、絶食にする場合はこまめに様子を見てあげて下さい。その後、症状が改善しない場合や悪化する場合は、獣医師に相談しましょう。

3-3. 下痢をしている、元気・食欲もない、震えている

 犬が下痢をしており、元気がなく食欲もない上に震えている場合、速やかに動物病院で診察を受ける必要があります。それは痛みがあり、そのせいで震えているからかもしれないからです。痛みがある場合、ただの下痢ではなく膵炎や腹膜炎といった他の病気によって、下痢が引き起こされていることもあります。症状や原因に応じて抗生物質や抗炎症薬、輸液療法などの治療を行います。また、病原体や内臓疾患の有無を確認するために、血液検査や画像診断を行うことがあります。

3-4. 下痢以外にも嘔吐などの症状がある

 下痢だけでなく、嘔吐や脱水症状がある場合、早期に動物病院での診察が必要な状態です。嘔吐まで出ているということは、大腸などの下部消化管だけでなく、胃や食道などの上部消化管にも異常が出てきていることの現れです。症状の原因や程度によって、輸液療法や抗生物質、制吐薬、抗炎症薬などの処方が行われます。必要に応じて、検査(血液検査、画像診断、内視鏡検査など)を行い、原因を特定し、適切な治療法を選択します。

3-5. 便が水下痢、血便、黒便が混ざっている

 便が水様性であったり、血便や黒便が混ざっている場合は、速やかに動物病院での診察を受けましょう。血便の色の具合は直接見てみないと判断ができないため、写真を撮っておくと良いでしょう。これらの症状は、重度の腸炎、内出血、消化器系の疾患、感染症などの兆候であることがあります。抗生物質、抗炎症薬、輸液療法、止血剤などの治療が適用されることがあります。

3-6. 慢性的な下痢

 慢性的な下痢が続く場合、積極的に原因を特定するための検査を受けましょう。検査には、血液検査、検便、画像診断、内視鏡検査などが含まれます。慢性的な下痢の原因は様々であり、食物アレルギー、食物不耐症、消化器系の疾患、内分泌疾患などが考えられます。原因に応じて、食事療法、抗生物質、ステロイドや免疫抑制剤などの薬物療法が行われることがあります。

 

<犬の下痢予防のために飼い主さんができること>

4-1. 適切な食事管理

下痢の原因となる食材を避けることが重要です。まずは、高品質で適切な栄養バランスを備えたペットフードを選びましょう。犬のアレルギーや敏感な消化器に配慮したフードも市販されています。また、突然の食事の変更は避け、徐々に切り替えることが望ましいです。人間の食べ物や生ゴミなどは与えないようにしましょう。

4-2. ストレスの軽減

犬のストレスを軽減するために、環境の整備や適切な運動を行いましょう。例えば、適切な広さとプライバシーを確保した寝床や居場所を作る、散歩や遊びで適度な運動を行う、他のペットや人間との良好な関係を築くなどが挙げられます。また「なるべく環境を変えないこと」も大切です。犬は環境の変化によるストレスを感じやすいので、できるだけ普段と同じ生活が送れるようにしてあげて下さい。

4-3. 定期的な健康チェックとワクチン接種

ウイルス性・細菌性の下痢は「これをやればいい!」というしっかりとした予防法がありません。ですが、本人の免疫力に大きく左右されますので、犬の健康状態を把握し、病気の早期発見・早期治療に努めるために、定期的な健康チェックをしてあげて下さい。また、一部のウイルス性下痢ではワクチン接種により症状を緩和させることが期待できるため、定期的なワクチン接種も欠かさず行いましょう。

4-4. 寄生虫予防の取り組み

犬に寄生虫がいないか、定期的に検査しましょう。多くの病院で定期的な健康診断が行われていると思いますので、その際に病院に便を持っていくといいと思います。また最近はノミ・ダニ駆除やフィラリア駆除薬と一緒に内部寄生虫の予防もできるお薬が増えましたので獣医師と相談し、適切な周期で投与することが大切です。

 

<まとめ>

犬の下痢はさまざまな原因がありますが、適切な対処法や予防策を行うことで改善が期待できます。飼い主として犬の健康状態に気を付け、定期的な健康チェックやワクチン接種を行いましょう。また、犬のストレスを軽減することや、適切な食事管理も大切です。

症状が重い場合や自宅での対処法で改善しない場合は、獣医師に相談して適切な治療を受けることが重要です。犬の健康を守るために、飼い主ができることを積極的に行いましょう。

カテゴリー