【獣医師が解説】犬のアレルギー症状:その原因と治療、対策法について|なんよう動物病院

  • 2023年6月30日
  • 最終更新日 2024年4月01日
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こんにちは!私は犬猫の皮膚と耳の病気の治療に力を入れているなんよう動物病院の鈴木です。

当院は愛知県のほぼ中央、知立市にありますが刈谷市、安城市、豊田市、岡崎市など近隣の市町村だけでなく、名古屋市、日進市、半田市、大府市、東海市、蒲郡市、豊橋市など県内の各地から多くの患者様にご来院いただいています。

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今回は、ワンちゃんのトラブルの中でもよく聞くアレルギーのうち、「皮膚に症状を起こすアレルギー」を中心に、解説していきます。

1.犬のアレルギーって本当にあるの?:犬におけるアレルギーとは

人間がアレルギーで病院にかかるように犬もまたアレルギーを発症することがあります。

これには体の「免疫」が関係しています。免疫とは細菌やウイルスなどの異物から体を防御してくれる抵抗力のことです。アレルギーとは、通常は無害な物質(例えば食べ物やホコリなど)に対して免疫反応が過剰に働いてしまう状態のことを指します。

犬にとっても、人間にとっても、アレルギーは健康を損なう可能性があるため、理解し対策することが重要です。

犬のアレルギーの中でも花粉やハウスダストマイトなどの環境中にある物質がアレルゲンとなり症状が出るものは「アトピー性皮膚炎」と言われ、遺伝的に発症しやすい犬種が知られています。

 

2.見逃してはいけない!犬のアレルギーの主な症状

犬のアレルギーの最も一般的な症状は皮膚の問題です。特に左右対称性のかゆみや赤みが目の周り、口周り、脇、手足の先、お腹などにみられることがあります。

アトピー性皮膚炎のように環境中のアレルゲンに反応して症状が出るタイプのアレルギーでは、そのアレルゲンが空気中に漂いやすい時期にだけ症状が強調して現れることがあります。

また、犬が舐めたり噛んだりすることで、脱毛が起こり二次感染を引き起こす可能性もあります。炎症が慢性化すると皮膚の色が黒くなる「色素沈着」が見られたり、象の皮膚のように厚くなる「苔癬化」という状態になることがあります。

アレルギーを持つ犬の中には体質により、皮膚が脂っぽくなったり、汗でペタペタするような子もいます。過剰な皮脂や汗はそれだけでも痒みの悪化につながることがあります。

また皮膚以外にもアレルギー症状として以下のようなものがあります。

・耳系の問題:外耳炎

・呼吸器系の問題:喘息、鼻炎など

・消化器系の問題:嘔吐や下痢など

3.犬がアレルギーになる主な原因:食物から環境まで

アレルギーを引き起こす原因物質をアレルゲンと呼びます。犬のアレルギーは、食物、ハウスダストやダニ、花粉、カビ、室内の化学物質、特定の薬など、さまざまなアレルゲンによって引き起こされることがあります。また、皮膚に対する物理的な刺激(例えば、虫刺され)やストレスもアレルギー症状を悪化させることがあります。

また犬では「痒みを我慢する」という理性がないため、痒ければひたすら舐めたり擦り付けたりします。その結果、皮膚のダメージが蓄積することで皮膚バリア機能が低下し、より多くのアレルゲンが皮膚の中に侵入しやすい状態が作られます。

4.犬のアレルギーの種類とそれぞれの特徴

今回は犬の皮膚に症状が出やすいアレルギーの種類と特徴について、ご説明していきます。

ノミアレルギー性皮膚炎

ノミアレルギー性皮膚炎は、犬の皮膚にノミが寄生することが原因となります。ノミが犬の血を吸う際に犬の体内に唾液を注入します。その唾液に対して免疫の過剰応答が起こり、皮膚炎が発症します。主に腰に皮膚の炎症や、痒みによる脱毛が起こることが特徴となっています。

ノミの数には関係なく、寄生しているのが1匹だけでもアレルギー症状が発現する可能性があります。そのため、症状の特徴からノミアレルギー性皮膚炎が疑われた場合には、ノミが確認できなかったとしても試験的な駆虫を行います。またフィプロニル製剤は登場から10年以上が経過し、薬剤耐性を持ったノミが確認されています。スポット剤を使っていてもノミがついている場合には予防薬の変更を検討する必要があります。

ノミの活動時期は初春から初冬にかけてと長い期間にわたります。特に冬場であっても暖房を使用している室内では繁殖する条件を満たしますので、通年での予防が推奨されています。

通常疥癬

疥癬はイヌセンコウヒゼンダニの感染による皮膚疾患です。感染している犬や野生動物との接触でうつる、非常に感染力の強い寄生虫です。人にもうつります。

疥癬による症状は「角化型疥癬」と「通常疥癬」に分けられますが、アレルギー症状を示す通常疥癬は、少数寄生したダニの角皮や糞便などの代謝物に対してアレルギー反応を起こす疾患です。対して「角化型疥癬」は大量の疥癬虫が寄生して分厚いかさぶたを作るのが特徴です。

通常疥癬は非常に強い痒みが特徴で、耳の縁や顔、肘、かかと、お腹などに症状が出ます。夜も寝られないくらい強い痒みがあり、家族にも同様の痒みが出てきた場合には疥癬の関与を疑った方が良いでしょう。通常疥癬では少数寄生のため検査をしても虫が発見できないことがほとんどです。疑わしい場合には疥癬を駆虫できる駆除薬を早めに投薬することが必要です。

食物アレルギー

食物アレルギーは、食物中の成分(多くは蛋白質)に対して免疫の過剰反応が原因となります。1歳以下もしくは7歳以上での発症が多いとされていますが、どの年齢でも起こる可能性があります。常に口からアレルゲンが入ってくるため通年性の痒みを認め、季節での変化は基本的にみられません。後述する犬アトピー性皮膚炎との併発も多いと言われています。

耳、眼周囲、口の周囲、指や肉球の間、脇や股などの間擦部に赤みや痒みが認められます。同時に、約半数では下痢や嘔吐などの消化器症状が見られると言われています。排便回数なども1つの参考となり、食物アレルギーを持つ犬の60%ほどは1日の排便回数が3回以上と言われています。

検査は除去食試験を行います。今まで食べていたフード(おやつ、デンタルガム、予防薬を含む)をすべて洗い出し、摂取したことのある成分、特に蛋白質を確認し、それらの含まれていない食事(新奇蛋白食)を与えて皮膚炎が落ち着くかを確認します。期間としては8〜13週間が必要と言われています。

この試験の際に大事なポイントとして、フードを以外のものを一切与えていけないわけではなく、フードの原材料に含まれているものであれば、自宅での調理していただければ食べることが可能です。例えば、小麦の成分がメインのフードで試験を行う場合は、マカロニを茹でれば与えることができます。

さらに試験を行い、症状が緩和した場合にはもともと食べていたフードに戻してみること(食物負荷試験といいます)が必要です。この段階で症状の悪化が見られたら、食物アレルギーと確定することができます。

犬アトピー性皮膚炎

犬アトピー性皮膚炎は遺伝的素因を背景にした慢性、再発性の痒みを起こす皮膚疾患で、主に環境アレルゲンに対して反応するものを「犬アトピー性皮膚炎」といいます。

以下に犬アトピー性皮膚炎の診断でよく用いられる項目をご紹介します。

これらの項目にいくつ該当するかにより、犬アトピー性皮膚炎である確率をある程度予測することができます。

国内で発症した犬アトピー性皮膚炎の原因の多くがハウスダストマイト(室内に生息しているチリダニ)に対してのアレルギー反応と言われていますが、その他に花粉やカビなどもアレルゲンとなります。

犬アトピー性皮膚炎を患う犬は皮膚のバリア機能が生まれつき脆弱で、アレルゲンが皮膚の細胞の間から体の中に入りやすいことも原因の一つと考えられています。

日本で犬アトピー性皮膚炎を起こす犬種として有名なのは柴犬です。その他には、シーズー、ビーグル、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ウェストハイランドホワイトテリアなどによく見られます。

犬アトピー性皮膚炎の症状は搔いたり舐めたりする行動から始まります。それから、皮膚の赤みや脱毛がみられるようになり、慢性化すると皮膚が黒く分厚くなります。耳、眼周囲、口周囲、指や肉球の間、脇、腹部、股によく症状がみられます。

また、夏場の高温多湿や、冬場の乾燥が症状の悪化に関与することもあります。

以下の写真の犬種は、遺伝的に犬アトピー性皮膚炎を発症しやすいと考えられています。

おうちのワンちゃんは当てはまっていますか?

マラセチア皮膚炎

マラセチアは健康な皮膚や耳にも生息している酵母菌で、主に動物の皮脂をエサとして生活しています。普段は皮膚炎を起こすことはありませんが、犬アトピー性皮膚炎や内分泌疾患などの皮膚免疫を低下させる病気、加齢などにより異常に増殖すると菌体成分や代謝物が刺激となり炎症を起こします。

マラセチアは皮脂の量に応じて増殖するため、脂っぽい犬では増えやすいです。シー・ズーでは非常によく見られます。その他、アメリカン・コッカー・スパニエルやウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどもかかりやすい犬種の代表です。

眼周囲、口周囲、耳介、爪周囲、指や肉球の間、脇や内股、陰部の周りなど擦れやすい部分でマラセチアの増殖が起こりやすいです。赤みや痒み、黄色くべたべたしたフケがみられ、脂っこい独特のにおいなどの症状が特徴的です。

 

5.アレルギー発症時の適切な対応:獣医師が解説する治療法

ここまでで犬のアレルギー症状にどのような種類があるかが分かってきたかと思います。ここからは実際に各アレルギーに対してどのように対処していくのが正解かをお伝えします!

ノミアレルギー性皮膚炎・通常疥癬の対処法

寄生虫が原因となっている疾患では、寄生虫の除去が第一に必要です。しかしながら少数寄生で実際に虫を確認できないことも多いため、ノミや疥癬など広範囲の寄生虫に効果のある駆虫薬を選択すべきでしょう。

この時に同居動物がいる場合にはすでに感染している可能性がありますので、必ず全頭で駆虫を行うようにしてください。

またノミや疥癬などの虫が駆虫されていなくなった後でもしばらくアレルギー反応による痒みが続くことがあります。その場合は痒みの程度を見ながら、痒み止めを飲ませてあげた方が楽に過ごすことができます。

食物アレルギーの対処法

上記の除去食試験を行い、食べていたものがアレルギー症状と関係があるかを調べます。その結果、食物アレルギーの疑いが分かった時は除去食試験で使用したフードをベースにして食べられる食材を探していくことになります。

具体的には魚と米をタンパク源として作られているフードなら症状が出ないけど、鶏肉を与えると痒みが出てしまう場合、ラム肉を与えても症状が出なければ同じ肉でもラムならOKということになります。

犬アトピー性皮膚炎の対処法

犬アトピー性皮膚炎は、遺伝的に皮膚バリア機能が弱いことや環境アレルゲンを完全に除去することが現実的には難しいことなどから、完治を望むことはできません。

アレルギー反応を抑える薬による対症療法が治療の中心となります。

 

よくネット上では「アトピー性皮膚炎を完治させる」といった謳い文句の製品が紹介されています。ですが、よく考えてみてください。人のアトピー性皮膚炎の患者さんは犬の何倍、何十倍もいるわけです。もちろん医師の先生方はアトピー性皮膚炎をうまく治すために日夜研究されています。犬のアトピー性皮膚炎を完治させるような治療法があれば、先に人の方で実用化されているでしょうし、今のように皮膚科に通い続ける患者さんはもっと少なくなっているはずです。さらに言えばアトピー性皮膚炎という遺伝的な背景が関わる疾患を完治させる治療法が見つかれば、おそらくノーベル賞クラスの発見となるはずです。

 

そういったことを考えれば「アトピーを完治」というワードがどれだけ現実的でないかがわかると思います。

ですが「完治=薬を使わなくていい状況まで持っていく」ことはできなくても、薬以外のケアを行って薬の量を減らしたり、うまくお付き合いすることはできるかもしれません。

アトピー性皮膚炎の症状を抑える飲み薬や塗り薬を使用しますが、いろいろな種類があります。薬によって効果の出方や副作用に違いがあるため、獣医師の先生とよく相談しながら選びましょう。近年、副作用の少ない内服薬や、月に1回注射することで効果が出る薬なども開発されています。これらの治療法は対症療法のため完治させることはできず、薬をやめるとまた症状が出てしまうため、生涯の投薬が必要になることが多いです。

ここ数年で腸内環境の悪化によりアレルギー症状が引き起こされるということが発見されてきました。この点に着目し、特定の乳酸菌を用いることで犬アトピー性皮膚炎の症状が緩和できたり、内服なしでも痒みのコントロールができるようになった症例も報告されています。

また犬アトピー性皮膚炎ではブドウ球菌やマラセチアの二次的な増殖による膿皮症や皮膚炎がかなりの確率で併発します。そのため、シャンプーや日々の保湿といったスキンケアをこまめに実施し、皮膚の上を清潔に保ってあげることも皮膚バリア機能を維持するために大切なポイントです。

 

マラセチア皮膚炎の対処法

マラセチア皮膚炎では、マラセチアの数を減らすことが必要ですが基本的にはシャンプーなどの外用療法で治療が可能です。抗真菌剤の入ったシャンプーで洗浄を行うことでマラセチアの数を減らすことができます。またマラセチアのエサとなる皮脂をクレンジングオイルなどで減らすことによっても、マラセチアを減少させることができます。

 

6.犬のアレルギーは治る?

ノミや疥癬といった寄生虫によるアレルギーは診断さえ間違えなければ、ほぼ100%完治させることが可能です。

ですが、食物アレルギーや犬アトピー性皮膚炎は生まれ持った体質が関与していることが多いため基本的には「治す」ものではなく、「管理」するものと考えていただいた方がいいでしょう。一旦症状が出た犬は、その後の生涯にわたってアレルギーを管理することが必要となることが多いです。現在では薬だけでなくサプリメントやシャンプー剤など様々な治療オプションが開発・提案されていますので、適切な治療と管理を行うことで、アレルギーの症状をコントロールしながら快適で健康な生活を送ることが可能です。

7.予防は最良の治療:犬のアレルギーを防ぐ具体的な対策

・定期的なシャンプーとブラッシングをしましょう

シャンプーを行うことで皮膚の上の汚れを取り除き、アトピー性皮膚炎の原因となるアレルゲンの除去も期待できます。シャンプーの際の注意点としては、どれだけ低刺激と記載されているシャンプーを使用しても、シャンプー後にはほとんどの場合で皮膚のバリア機能は低下します。そのため、シャンプー後の保湿は絶対に行ってください。

シャンプー後には吸水力が十分あるタオルを使うことでドライの時間を短縮することができ、犬にも皮膚にも負担を軽くしてあげることができます。

またブラッシングは体に付着したアレルゲンや抜け残っている被毛を行うだけでなく、皮膚のマッサージ効果もあります。犬にとって飼い主さんとのスキンシップは心の安心に繋がりますので、積極的に取り入れてあげてください。

・飼育環境内の花粉やハウスダストを減らしましょう

犬アトピー性皮膚炎では環境中にあるアレルゲンが原因となり、症状が出てきます。そのため、こまめな掃除や空気清浄機を導入することにより、飼育環境中のアレルゲンを減らすことが期待できます。

また散歩中は服を着せてあげて家に入る前に服を脱がせる・ブラッシングを行う、飼い主さんもハンディクリーナーで服を一通り吸っておくといった対策により、花粉などのアレルゲンを室内に持ち込む量を減らすことができます。

・ノミダニの駆除は必ず行いましょう

ノミや疥癬によるアレルギーを経験した子は、必ず予防を行うようにしてください。特に冬季に症状が出た場合には、年間を通して予防を行った方が良いでしょう。

予防薬にはスポットタイプや食べるタイプがありますので、獣医さんと相談しながら継続的に使用することができる予防薬を選んでください。

8.まとめ:犬のアレルギーと共に歩むために

ワンちゃんのアレルギーはさまざまな要因で発症し、診断・治療ともに根気が必要です。ですが適切な管理を行うことで、ワンちゃんと飼い主さん双方のストレスを軽減し、快適な生活を送ることができます。飼い主さん自身が犬のアレルギーについて学び、適切な対策を講じることで、アレルギーを持つ犬との生活は確実に良い方向へと向かいます。体質だからしょうがないと諦めてしまうのではなく、少しでも体の痒みという苦痛やストレスを減らしてあげられるように、対策をとってあげてください。

 

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