冬太りだと思ったら病気?「甲状腺機能低下症」のサイン|なんよう動物病院|獣医師が解説します

冬太りだと思ったら病気?「甲状腺機能低下症」のサイン|なんよう動物病院|獣医師が解説します

  • 2026年2月17日
  • 最終更新日 2026年1月27日
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冬の寒さが本格的になると、ワンちゃんたちが暖かい場所で丸まって寝ている姿をよく見かけます。「冬だし、外に出るのも億劫なのかな」「食欲はあるし、少し太ったのも冬のせいかな」と、多くの飼い主様が「季節のせい」と考えがちです。

しかし、その「元気のなさ」や「体重増加」の影に、ある重要なホルモンの病気が隠れていることがあります。それが「甲状腺機能低下症」です。

この病気は非常にゆっくりと進行するため、飼い主様が「年のせいかな?」「冬太りかな?」と思っている間に、全身の代謝が低下してしまう、いわば「スローモーションの病気」。

今回は、特に冬に見落とされやすい甲状腺機能低下症のサインや、自宅で気づくためのポイント、そして治療法について詳しく解説します。

単なる「加齢」や「冬太り」との違い

甲状腺はのどにある小さな臓器で、全身の細胞の「アクセル」役となる甲状腺ホルモンを分泌しています。このホルモンが不足すると、体のすべてのエンジンの回転数が落ちてしまいます。

代謝の低下による症状

  • 体重の増加(冬太りとの混同): 食事の量は変わっていない、あるいはむしろ減っているのに、体重が増えたり維持されたりします。

  • 活動性の低下(加齢との混同): お散歩に行きたがらない、寝てばかりいる、階段の上り下りを躊躇する、呼んでも反応が鈍いといった様子が見られます。

  • 寒がり(熱産生不足): 以前よりも暖かい場所を執拗に探したり、震えやすくなったりします。これを「熱追求行動」と呼びます。

皮膚・被毛に現れる特徴的なサイン

皮膚科の視点からも、甲状腺機能低下症は「皮膚の病気」として発見されることが非常に多いです。

  • 左右対称性の脱毛: 痒みがないのに、体の側面(わき腹など)の毛が左右対称に薄くなります。

  • ラットテイル(ネズミの尻尾): 尻尾の毛が抜け落ち、ネズミの尻尾のようにツルツルになる独特な症状です。

  • 悲劇的表情(Tragic Expression): 顔の皮膚に粘液が溜まり(粘液水腫)、まぶたが垂れ下がって、悲しそうな、あるいはボーッとした表情に見えるようになります。

  • 被毛の質の低下: 毛がパサパサになり、色が抜けてきたり、毛が生え変わらなくなったりします。

その他の微細な変化

  • 心拍数の低下: 安静時の脈拍が以前よりゆっくりになります。

  • 神経・筋肉症状: 後ろ足に力が入りにくい、ふらつくといった症状が稀に見られます。

考えられる原因:体の中で何が起きているのか

甲状腺機能低下症の原因は、大きく分けて2つの「体のエラー」によるものです。

① リンパ球性甲状腺炎(自己免疫性)

自分の体の免疫細胞が、なぜか自分の甲状腺を「敵」と見なして攻撃してしまう状態です。中〜高齢の犬で最も多い原因の一つです。ゆっくりと甲状腺組織が破壊され、ホルモンが作れなくなっていきます。

② 特発性甲状腺萎縮

炎症などは起きていないものの、甲状腺の組織が脂肪に置き換わったり、萎縮して小さくなってしまったりする原因不明の状態です。

なぜ犬に多く、猫に少ないのか

犬は甲状腺機能低下症になりやすい一方で、猫は逆にホルモンが出すぎる「甲状腺機能亢進症」になりやすいという特徴があります。特にゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、柴犬、ミニチュア・シュナウザーなどは、比較的この病気になりやすい犬種と言われています。

自宅でできる対処法:飼い主様の「観察眼」が薬になる

この病気は急激に悪化するものではないため、ご自宅での日常的な観察が最大の診断材料になります。

ライフログ(生活記録)をつける

「なんとなく元気がない」という主観を客観的なデータに変えましょう。

  • 体重測定: 1週間に一度、家庭用の体重計(抱っこして測って差分を出す)で記録します。

  • 写真撮影: 1ヶ月に一度、真横からと真上から愛犬の写真を撮ります。「毛が薄くなっていないか」「体型が変わっていないか」を比較できます。

  • 活動量のチェック: 「お散歩の距離が短くなっていないか」「寝ている時間はどれくらいか」をメモしておきます。

環境の調整

甲状腺機能が低下している子は、体温調節が非常に苦手です。

  • 室温の維持: 暖房器具を適切に使い、20〜25℃程度の快適な室温を保ちます。

  • 防寒着の活用: 外出時は服を着せ、急激な温度変化から守ってあげましょう。

食事の管理

体重が増えているからといって、極端に食事量を減らすのは禁物です。

栄養バランスが崩れ、被毛の健康がさらに損なわれる可能性があります。まずは「病気があるかどうか」を確認してから、適切な療法食を検討しましょう。

病院に行った方がいいと考えられる場合

以下のような変化が「冬だから」「シニアだから」という理由以上に顕著な場合は、早めの受診をお勧めします。

受診をお勧めするチェックリスト

  • 食べていないのに太る: ダイエットをしているのに体重が減らない。

  • 「老け込んだ」と感じる: この半年〜1年で急に動きが鈍くなった。

  • 毛が抜けたまま生えてこない: 夏にバリカンで刈った毛が、冬になっても生え揃わない。

  • 皮膚が黒ずんできた: 脱毛している部分の皮膚がゴワゴワして、色が濃くなってきた。

  • 性格が変わった:何に対しても無関心になった。

治療の種類について:ホルモンを「補う」という選択

甲状腺機能低下症の素晴らしい点は、「適切な診断さえつけば、治療への反応が非常に良く、劇的に元気になることが多い」という点です。

診断方法:血液検査が鍵

血液検査で「甲状腺ホルモン(T4、fT4)」と「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の数値を測定します。

  • T4/fT4が低いTSHが高い = 典型的な甲状腺機能低下症

  • T4が低いTSHも低い = 他の病気(Euthyroid Sick Syndrome)の可能性も考慮

ホルモン補充療法(飲み薬)

不足している甲状腺ホルモン(レボチロキシン)を、お薬として毎日服用します。

  • 即効性: 治療を始めると、数日から1〜2週間で「顔つきが明るくなった」「活動的になった」と実感される飼い主様が多いです。

  • 毛の再生: 皮膚や被毛の状態が改善するには、2〜3ヶ月程度の時間がかかります。

  • 継続が大切: 多くの場合は一生涯の服用が必要になりますが、適切な量であれば副作用の心配はほとんどありません。

定期的なモニタリング

お薬の量が多すぎると、逆に心臓に負担がかかったり、落ち着きがなくなったり(機能亢進症のような状態)することがあります。定期的に血液検査を行い、最適な投与量に調整していきます。

まとめ:「冬のせい」にしない、優しい見守りを

甲状腺機能低下症は、痛みがある病気ではありません。しかし、体中のエンジンが止まりかかっている状態は、動物にとって決して楽なものではありません。

「もうお年だから寝てばかりなのは仕方ない」 「冬だから太るのは当たり前」

そう思っていた変化が、実はお薬一つで解決できる病気かもしれません。治療を始めたワンちゃんが、再び子犬の頃のようなキラキラした瞳で走り回るようになる姿を、私たちは何度も見てきました。

もし、この記事を読んで「うちの子も……?」と少しでも感じたら、それは愛犬からの小さなサインかもしれません。その違和感を確認し、健やかな毎日を取り戻すお手伝いをさせてください。

当院では、冬の健康診断キャンペーンに合わせて、甲状腺ホルモンの数値を含めたシニア健診プランをご用意しています。「病気じゃないかもしれないけれど、確認しておきたい」というご相談も大歓迎です。

お気軽にお声がけください。

愛知県知立市の動物病院 なんよう動物病院

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