寒暖差が引き金に?冬に注意したい「てんかん発作」|なんよう動物病院|獣医師が解説します

  • 2026年1月20日
  • 最終更新日 2026年1月20日
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寒暖差が引き金に?冬に注意したい「てんかん発作」

冬の足音が聞こえ始め、朝晩の冷え込みが厳しくなってくると、私たち人間も体調を崩しやすくなります。

実は、大切な家族であるワンちゃんやネコちゃんにとっても、冬は神経系のトラブル、特に「てんかん発作」のリスクが高まる季節であることをご存知でしょうか。

「昨日まであんなに元気だったのに、突然体が硬直して……」

「冬になると、なんとなくソワソワして発作が増える気がする」

当院の神経科外来でも、冬場になるとこのようなご相談をいただく機会が増えます。

なぜ冬に発作が起きやすいのか、そして飼い主様としてどのように備えるべきなのか。

今回は、冬の「てんかん発作」に焦点を当てて詳しく解説していきます。

1. 症状の説明:それは本当に「てんかん」?

てんかん発作と聞くと、全身をガタガタと震わせる姿を想像される方が多いかもしれません。しかし、発作の形態は多岐にわたります。まずは、どのような症状が発作に該当するのか正しく理解しておきましょう。

全般発作(全身性発作)

脳の広い範囲が過剰に興奮することで起こる、最も代表的な発作です。

強直間代発作: 体全体がカチカチに硬直した後、手足をバタバタと泳がせるような動作(パドリング)が見られます。

意識消失: 呼びかけに反応せず、目の焦点が合いません。

自律神経症状: 大量のよだれ、失禁、脱糞などを伴うことがあります。

焦点発作(部分発作)

脳の一部のみが興奮することで起こる発作で、意識がある場合もあります。

顔面のピクつき: 片方の口角や目元が細かく震える。

ハエ噛み行動: 何もない空間に対してパクパクと噛みつくような動作をする(Fly-catching)。

旋回: 同じ方向にずっと回り続ける。

発作の「前」と「後」のサイン

発作そのものだけでなく、その前後で見られる変化も重要な診断材料です。

前兆(オーラ): 飼い主様に異常に甘える、部屋の隅に隠れる、落ちつきがなくなるなどの変化が数分〜数時間前に見られることがあります。

発作後状態: 発作が終わった後、ふらついたり、一時的に目が見えていないような仕草をしたり、激しい食欲を見せたりすることがあります。これは脳が極度の疲労状態にあるサインです。

2. 考えられる原因:なぜ冬に「てんかん」が増えるのか?

てんかんは、脳内の神経細胞が一時的に過剰な電気信号を発することで起こる「脳の嵐」のようなものです。冬特有の要因が、この嵐を引き起こす「スイッチ」になることがあります。

① 激しい寒暖差(気温の変動)

冬の朝、暖かいリビングから冷え切った屋外へ散歩に出る際や、逆に寒い外から帰ってきて急に暖房の効いた部屋に入る際、体は急激な環境変化にさらされます。

このとき、自律神経が体温を調節しようとフル回転しますが、その負荷が脳の神経系にストレスを与え、発作のしきい値(発作の起きやすさの境界線)を下げてしまうと考えられています。

② 気圧の変化

冬は強い西高東低の気圧配置になりやすく、急速に発達する低気圧が通過することもあります。気圧の変動は内耳や自律神経を通じて脳に影響を及ぼし、脳圧のわずかな変化がてんかんを誘発する一因となります。

③ 運動不足とストレス

寒さで散歩の時間が短くなったり、室内で過ごす時間が増えたりすることで、活動量が低下します。これにより睡眠サイクルが乱れたり、退屈によるストレスが蓄積したりすることも、脳にとってはマイナスの要因となります。

④ てんかん自体の分類

原因を特定するためには、以下の2つの分類を理解する必要があります。

特発性てんかん: 検査(血液検査やMRI)をしても脳に構造的な異常が見つからないもの。遺伝的要因が疑われ、多くは1歳〜6歳前後で発症します。

構造的てんかん: 脳腫瘍、脳炎、水頭症、外傷など、脳自体に明らかなダメージがあるもの。高齢になってから初めて発作が起きた場合は、脳腫瘍などの可能性を強く疑います。

3. 自宅でできる対処法:もし発作が起きたら

目の前で愛犬・愛猫が発作を起こすと、誰しもパニックになってしまいます。しかし、飼い主様が冷静でいることが、動物たちの安全を守る第一歩です。

発作中の対応

やるべきこと  やってはいけないこと 
安全なスペースの確保: 周りの家具や角があるものから遠ざける。 口の中に手を入れない: 舌を噛むことは稀ですが、無意識に噛まれて大怪我をする恐れがあります。
時間を計測する: 発作が何分続いているか、秒針を確認してください。 大声で呼びかけたり揺さぶったりしない: 神経をさらに刺激し、発作を長引かせる可能性があります。
動画を撮影する: 診断において、発作の様子を映した動画は「100の言葉」よりも価値があります。 発作直後に食べ物を与える: 誤嚥(喉に詰まらせる)のリスクが非常に高いです。

冬の生活環境を整える

  1. 温度変化を緩やかに: 散歩に行く際は玄関先で少し体を慣らしてから外に出る、防寒着を活用するなどの工夫をしましょう。

  2. 湿度管理: 乾燥は体力の消耗を招きます。加湿器を使い、快適な湿度(50〜60%)を保ちましょう。

  3. 安静な場所の確保: 発作が起きやすい子は、刺激の少ない静かな場所にベッドを配置してあげてください。

4. 病院に行った方がいいと考えられる場合

すべての発作が即座に命に関わるわけではありませんが、「様子を見てはいけない緊急事態」が存在します。以下のチェックリストに当てはまる場合は、夜間であってもすぐに救急病院を受診してください。

すぐに受診すべき「レッドサイン」

重積状態(じゅうせきじょうたい): 1回の発作が5分以上続いている場合。脳が高熱を持ち、深刻なダメージを受けるリスクがあります。

群発発作(ぐんぱつほっさ): 24時間以内に2回以上の発作が起きる場合。放っておくと重積状態に移行する危険があります。

意識が戻らない: 発作が終わった後、15分〜30分経っても意識が混濁している、あるいは立てない場合。

顔色が悪い(チアノーゼ): 舌が紫や白になっている場合は、呼吸困難に陥っている可能性があります。

定期的な受診が必要なケース

「月に1回程度だから大丈夫だろう」と自己判断するのは禁物です。発作の頻度が半年に1回から3ヶ月に1回へと短くなっている場合、脳の中で「発作の回路」が強化されている可能性があります(キンドリング現象)。早めの相談が、将来的な重症化を防ぎます。

5. 治療の種類について

てんかんの治療は「発作をゼロにすること」だけが目的ではありません。「発作の頻度と強度を減らし、副作用を最小限に抑えながら、家族とのQOL(生活の質)を維持すること」が真のゴールです。

薬物療法(メインの治療)

抗てんかん薬を毎日決まった時間に服用します。

フェノバルビタール: 古くから使われている代表的な薬ですが、定期的な血液検査での濃度測定が不可欠です。

ゾニサミド: 副作用が少なく、多くのワンちゃんで使用されています。

レベチラセタム: 腎臓への負担が少なく、他の薬と併用されることも多い新しいお薬です。

臭化カリウム: 肝臓が悪い子でも使用できる選択肢です。

外科手術や高度診断

構造的てんかん(脳腫瘍など)が疑われる場合、MRI検査による精密診断を行います。原因によっては外科的な摘出や放射線治療が検討されることもあります。

食事療法(ケアの補助)

最近では、MCTオイル(中鎖脂肪酸)が脳のエネルギー代謝を助け、発作頻度を抑える効果があることが分かってきました。てんかん管理用の療法食も市販されているため、薬と併用して取り入れるケースが増えています。

まとめ:冬を健やかに乗り切るために

冬の寒暖差は、てんかんを持つ子にとって一つの試練となります。しかし、適切な環境管理と、万が一の際の正しい知識があれば、過度に恐れる必要はありません。

てんかんは「付き合っていく病気」です。私たちは飼い主様が一人で抱え込まず、動物たちが穏やかな冬を過ごせるよう、全力でサポートいたします。

「最近、少し様子がおかしいかも?」

「冬の発作対策、今のままで大丈夫かな?」

そんな些細な不安でも構いません。少しでも気になることがあれば、いつでも当院の神経科外来へご相談ください。

愛知県知立市の動物病院 なんよう動物病院

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