犬アトピー性皮膚炎の治療の教科書!これさえ見ればOK!|なんよう動物病院|愛知県知立市・刈谷市

  • 2023年10月28日
  • 最終更新日 2024年4月01日
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こんにちは!私は犬猫の皮膚と耳の病気の治療に力を入れているなんよう動物病院の鈴木です。

当院は愛知県のほぼ中央、知立市にありますが刈谷市、安城市、豊田市、岡崎市など近隣の市町村だけでなく、名古屋市、日進市、半田市、大府市、東海市、蒲郡市、豊橋市など県内の各地から多くの患者様にご来院いただいています。

今回は犬アトピー性皮膚炎について、非常に詳しく解説していますので(書くのにめちゃくちゃ時間かかりました💦)ぜひ最後まで読んでみてください!

 

当院では皮膚科に特化した診療を行っています。診療をご検討されている飼い主様は以下のサイトをご覧ください。

当院では遠方でご来院が難しい飼い主様向けにオンライン診療を行っています。

オンライン診療をご希望の方は下のバナーから詳細をご確認ください。

はじめに

様々な皮膚病で多くのわんちゃんが動物病院を来院されますが、中でも「犬アトピー性皮膚炎」という病名は、多くの飼い主様にとっては馴染み深いものかもしれません。この病気は、慢性再発性に痒みや皮膚の炎症が出てくるため、不快感やストレスによって犬の日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。しかし、病名だけを知っているという飼い主様は多く、その実態や最新の治療法については詳しく知らない方も少なくありません。

今回の記事では、犬アトピー性皮膚炎の概要から、その最新の治療法までを詳しく解説します。犬の健康を真剣に考えるすべての飼い主様に向けて、役立つ情報をお届けしたいと思います。皮膚病のわんちゃんを飼育されている方だけでなく、すべての犬の飼い主様にとっての参考となる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

犬アトピー性皮膚炎とは?

犬アトピー性皮膚炎は3つの要因から形成される慢性皮膚疾患です。

その3つの要因とは以下の3つです。

✅遺伝的背景

✅免疫要因

―IgE産生異常

―リンパ球

✅皮膚バリア低下

それぞれを解説していきます!

<遺伝的背景>

犬アトピー性皮膚炎には好発する犬種が存在します。

国内でアレルギー性皮膚炎の保険請求割合が多いのはこの5犬種です(アニコム損保調べ)。おそらく動物病院でこれらの犬種で皮膚が痒いという主訴で来院されたら、まずはアレルギーの存在を疑うと思います。

<免疫異常>

少し難しい話になりますが。アトピー体質を犬の体内にアレルゲンが侵入するとBリンパ球がIgEという免疫タンパクが作ります。このIgEは血液循環に乗って皮膚まで到達し、皮膚の肥満細胞にくっつきます。その状態でアレルゲンが侵入すると肥満細胞にくっついているIgEと反応し、肥満細胞からヒスタミンという物質が放出されます。このヒスタミンが皮膚に炎症や痒みを引き起こします。

下の図は同様のアレルギー反応である人の花粉症の紹介図です。

またリンパ球もアレルギーを引き起こす主役になっています。白血球の一種であるリンパ球には様々なタイプがあり、アレルギーで主に問題となるのはTh2型リンパ球です(このほかにもTh1型、Th17型などがあります)。Th2型リンパ球は「サイトカイン」という様々な機能を持つ生理活性物質を放出し、情報の伝達を行っています。特にTh2型リンパ球から出るIL-4、IL-13、IL-31の3つのサイトカインが特に犬アトピー性皮膚炎と深い関係にあることがわかっています。

<皮膚バリア機能>

犬アトピー性皮膚炎の発症は、免疫異常だけでは成立しません。それを証明する面白い実験があります。その内容とは、IgEを作りやすい体質のラットを作ってもアトピーの症状は確認されなかったが、さらに皮膚のバリアを破壊する処置を加えるとアトピーの症状が確認されたというものです。

このことから「IgEを作りやすい体質を持っていたとしても、皮膚のバリアがちゃんと機能していれば、アトピー性皮膚炎は発症しない」ということがわかります。

また過去には国内でアトピーでない犬(健常犬)とアトピーの犬を用いて、皮膚のバリア機能を解説した論文が報告されています。

皮膚バリア機能の指標とされている経皮水分蒸散量(TEWL)は、一定時間内に皮膚から出る水分の量を示しています。これを調べることでどれくらい皮膚バリアが壊れているかを評価できます。

この論文では、アトピーの犬の皮膚症状が出ていない部分のTEWLは健常犬よりも低下していたという結果が出ています。つまり、アトピーを発症している犬もしくはアトピーの好発犬種などは、赤みやフケといった皮膚の症状がない部分でもすでに皮膚バリア機能が低下(TEWLが増加)してきている可能性があるということです。

実際に人では、生後2日後の乳児を対象に調査が行われており、経皮水分蒸散量が高い乳児は正常な乳児よりも1歳でアトピーになるリスクが7.1倍だったと報告されています。

このことからも一見正常に見えても、すでに皮膚バリア機能の低下は始まっており、それによってアトピー性皮膚炎の発症の可能性が高まってしまうということです。

人も犬もいかに保湿が大切かわかりますね。

 

<アトピーになる・ならないの差は?>

ここで一つ疑問を投げかけたいと思います。

アトピー性皮膚炎になるのは、本当に生まれつきの問題だけなのでしょうか?

 

人ではアトピーの家系の研究がされており、以下のような結果になっています。

両親がアトピー持ち→65%の子孫がアトピーになる

片親がアトピー持ち→21〜57%の子孫がアトピーになる

両親は健康→11%の子孫がアトピーになる

両親ともにアトピーだったとしても35%の子孫はアトピーにならないんです。

 

これはなぜでしょうか?

次に、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーで行われた調査についてご紹介します。

アトピーになったグループとアトピーにならなかったグループを分けて、生まれてからアトピー性皮膚炎が発症するまでの生活環境にどのような差があったかを解析した調査です。

それの結果、アトピーになったグループにあった特徴として、この3つがありました。

✅主に室内やケージ内で生活

✅8〜12週齢でお迎えされていた

✅週1回シャンプー

 

一方、アトピーにならなかったグループの特徴としては、次の3つがありました。

✅田舎暮らし

✅他の犬猫と生活していた

✅森で散歩していた

 

これだけ見るときれいにされていた子達でアトピーが発症していて、あまりきれいにされていなそうな子達ではアトピーが発症していません。なんで?となりませんか?

これには「衛生仮説」という考え方があります。

衛生仮説では幼少期に多くの微生物に接触するとリンパ球がTh1型に傾きやすく、幼少期に衛生的な環境に置かれ、微生物への接触が少ないとリンパ球がTh2型に傾きやすくなると言われています。少し上でも触れましたがTh2型リンパ球はアレルギー反応の主役の一つです。幼少期の過ごし方で将来のアトピーの基礎を作ってしまっているんですね。

<腸と皮膚の関連について>

Th1型、Th2型、Th17型など多数のタイプがあるリンパ球ですが、これらを統合してまとめる役割をしているリンパ球が存在します。そのリンパ球を「制御性T細胞(Treg)」といいます。このTregの働きに深く関わっているのが、「腸」です。免疫担当細胞の70%は腸に存在すると言われるほど、腸という臓器は体の免疫にとって重要な役割を果たしています。

腸内細菌のいい場合、豊富な腸内細菌によって短鎖脂肪酸が多く作られます。この短鎖脂肪酸はTregを活性化させ、 Th2型リンパ球などの炎症性細胞の働きを抑制してくれます。

一方、腸内環境が悪く腸内細菌のバランスが乱れていると、短鎖脂肪酸があまり作られません。そうなるとTregが活性化しにくくなるため、炎症性細胞の働きを抑え込めず皮膚に炎症反応が起こりやすくなると考えられています。この状態の腸を人ではAD Gutと言います。

2019年の論文ではアトピ性―皮膚炎の乳幼児は、腸内細菌の多様性が低いことが報告されています。AD Gutにならないように、もしくは少しでも症状を和らげるために腸内細菌のバランスを整えてあげることもアトピーをケアするための一つのポイントなのです。

最初に犬アトピー性皮膚炎の要因は、遺伝的背景、免疫要因、皮膚バリア低下と言いましたが、ここまで読んでいただければ、アトピーの要因はそれだけではないことにお気づきですね?

近年ではこれらの要因に加えて、綺麗すぎる環境での生活や腸内細菌の乱れもアトピーの要因として考えられています。複数の要因を適切に管理することでお薬だけに頼ることなく、総合的に犬アトピー性皮膚炎の管理を行うことができます。

犬アトピー性皮膚炎の症状

犬アトピー性皮膚炎はアレルゲンに暴露されることにより、初めは湿疹のない痒みから始まります。

その後、掻きこわしが悪化することにより、皮膚の赤みやブツブツ、脱毛、黒く変化する色素沈着、皮膚の象皮様変化である苔癬化と症状が進行していきます。

犬アトピー性皮膚炎の症状が出るところには、以下のような一定の特徴があります。

✅左右対称であること

✅顔面や耳

✅脇

✅腹部

✅内股から陰部にかけて

✅手足の先端

これら以外にも犬種ごとに症状が出る部位に特徴があり、例えばウエストハイランドホワイトテリアでは腰に症状が出やすいとされています。

また両耳における外耳炎を再発する症例の実に90%以上がアトピー性皮膚炎を持っていたという報告もあります。そのため、慢性的に外耳炎を繰り返すわんちゃんは重症度に違いはありますが、ほぼアトピーだと思っていただいた方がいいでしょう。

犬アトピー性皮膚炎の診断

犬アトピー性皮膚炎の診断には、似たような症状を示す皮膚病を検査によって除外する必要があります。その診断手順とは以下のとおりです。

Step1:ノミの除外

Step2:その他の寄生虫の除外

Step3:膿皮症、マラセチア皮膚炎の除外

Step4:皮膚食物有害反応の除外

Step5:血清IgE検査にて反応を確認する

IgE検査まで実施したら、より犬アトピー性皮膚炎であることを裏付けるために設けられたFavrotの基準に当てはめてみます。この図の項目により多く当てはまっていると、犬アトピー性皮膚炎の可能性が高まります。

このように犬アトピー性皮膚炎は、様々な皮膚疾患をしっかり検査で除外した上で診断する必要があるため、パッと見て「これはアトピー!」といってしまうのは少し疑問が残りますね。

犬アトピー性皮膚炎の治療

おそらく多くの飼い主様はこの部分が一番気になっているのではないでしょうか?

まず、犬アトピー性皮膚炎の治療を始めるにあたり、獣医師と飼い主様の間で持っておくべき共通認識があります。

✅完治は期待できない(乳酸菌などのサプリメントでお薬が要らない状況になることはあるが、サプリメントをやめることはできない)

✅長いお付き合い(基本的には生涯にわたって治療が必要)

✅複合的な治療が必要

✅1人ではなく、ご家族全員で治療に取り組んでいただく

✅アトピーの治療を通じて、全身の健康管理を行っていく

これらのポイントを押さえて、治療のゴールを明確にすることがとても大切です。

治療ゴールは飼い主様によってさまざまでちょっとした痒みも止めてあげたい!という方もいれば、ハゲなければそれでO Kという方もいらっしゃいます。

飼い主様とわんちゃんにとって、ちょうどよく皮膚の症状をコントロールができるところを見つけていきましょう。

2015年に犬アトピー性皮膚炎の世界的な治療ガイドラインがまとめられました。それが以下のような項目となっています。

<急性悪化期>

✅悪化要因の同定と回避

―ノミ、食物、環境抗原などの悪化因子の排除

―細菌、酵母菌感染の管理

✅皮膚・被毛の衛生環境の向上とケア

―低刺激性シャンプーによる入浴

✅薬物療法による痒みと皮膚病変の緩和

―塗り薬のステロイドホルモン剤

―アポキルの内服

<慢性期>

✅悪化要因の同定と回避

―季節性のない痒みがある場合は除去食試験を実施

―ノミの管理・駆虫

―アレルゲン特異的IgE検査の実施

―ハウスダストマイトやその他のアレルゲンの管理

―細菌、酵母菌感染の管理

✅皮膚・被毛の衛生環境の向上とケア

―皮膚病変に合わせた低刺激、抗脂漏、抗菌シャンプーでの入浴

―必須脂肪酸の補給

✅薬物療法による痒みと皮膚病変の緩和

―塗り薬のステロイドホルモン剤

―ステロイドホルモン、アポキル、シクロスポリンの内服

―必須脂肪酸、抗ヒスタミン薬の併用

✅症状の再燃防止戦略

―悪化要因の回避

―塗り薬のステロイドホルモン剤を使ったプロアクティブ療法

―アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)

犬アトピー性皮膚炎に対する治療薬も年々アップデートされており、より副作用が少なく長期間の使用が可能な薬剤が登場しています。

2000年前後ではステロイドしか選択肢がありませんでしたが、近年では皆さんが一度は聞いたことのある「アポキル」や「オクラシチニブ」など非常に優れた薬も使えるようになりました。

従来の犬アトピー性皮膚炎の治療は症状が出てから治療をして改善させていく「リアクティブ療法」が主流でした。2019年頃からは症状がない時でも外用剤などを使ってうまくケアをすることで症状の再発を防止する「プロアクティブ療法」が提唱されるようになっています。

さらにアポキルとシクロスポリンには痒みを止めるだけではない、追加の効能があります。

それは犬アトピー性皮膚炎で頻発する二次感染の発生率を抑えられるというものです。

犬アトピー性皮膚炎ではブドウ球菌による膿皮症やマラセチアの増殖によるマラセチア皮膚炎がそれぞれ高率に併発します。特に膿皮症は犬アトピー性皮膚炎の66%の症例で発症すると言われています。

 

 

これほど発生しまくる膿皮症にはどのように対処したらいいでしょうか?

上の方でリンパ球がアレルギーに関与しているというお話をしましたが、それがポイントになります。アポキルやシクロスポリンはTh2型リンパ球から出るIL-4、IL-13、IL-31などのサイトカインをうまく抑制してコントロールしてくれます。下の図のようにTh2型リンパ球から出されるサイトカインの働きがブロックされると、その後に続く皮膚への悪い影響も出てきません。そのため、皮膚バリア機能の低下や炎症の促進といった常在菌が感染するのに有利な状況ができにくくなり、自然と膿皮症やマラセチアの発生率も低くなっていきます。これを見るだけでもアポキルやシクロスポリンがどれほど優秀なお薬なのかがわかりますね。

 

 

ここまで犬アトピー性皮膚炎で使うお薬についてお話ししてきましたが、ここで少し愚痴を言わせてください。

最近、インスタグラムやFacebookで「アポキルはずっと飲んでいるとダメ!、だからこのサプリメントを使って体質を改善させましょう!」みたいな広告が山のように出てきます。正直言ってうんざりですが、一例としてあるサイトの一部を紹介します。

まずここでは「副作用」が怖いと言っていますが、実際に長期投与した時に認められたと書かれているのは「有害事象」です。副作用と有害事象、専門ではない人からすれば同じように聞こえますが、私たちが見ると全く別物です。

「副作用」とは、その薬の投薬中に生じた犬にとってよくない症状のうち、薬との因果関係がしっかりと証明できるもののことです。

「有害事象」とは、薬の投薬中に発生した犬にとってよくない全ての症状であり、それが薬の影響かどうかはわかりません。このサイトで紹介されている有害事象の中では、例えば膿皮症や外耳炎は犬アトピー性皮膚炎では頻発しますから有害事象ではなく、アトピーの管理がうまくいっていないため、出ているだけとも考えられます。また下痢が6%とありますが、普通に生活していても100頭に6頭くらいは軟便になっているかもしれません。

ですので、「副作用」と「有害事象」という言葉をしっかり理解した上でこれを見るとちょっとおかしなことが書いてあるとわかるんですね。

さらに一番右側の画像では、乳腺ガンや皮膚ガンなどの怖い病気も発症させてしまうと書かれています。これについても海外にて大規模な調査が行われており、アポキルを投与していたグループと投与していなかったグループで腫瘍の発生率に差はなかったと報告されています。つまりアポキルを飲んでいて腫瘍ができてしまったわんちゃんは、アポキルのせいではなく普通に生活していたとしても発生しうる腫瘍が出てきただけということです。

このように間違った(もしくは意図的に悪いように改竄された)情報に右往左往せず、正しい情報を掴んでくださいね!

ちなみに科学的根拠に基づいて製造されているサプリメントやスキンケア製品ももちろんありますので、うまくお薬とケアアイテムを組み合わせていきましょう!

 

それでは長くなってしまいましたが、犬アトピー性皮膚炎の治療に話を戻しましょう。

いざ、アトピー性皮膚炎を治療するとなった場合、最も大事なのは初めの1ヶ月です。

初めの1ヶ月でできる限り、しっかりとお薬とスキンケアを併用し、症状を抑え込む必要があります。ここでダラダラしてしまうと治ったり悪くなったりを繰り返す沼にハマってしまうかもしれません。

まずは痒みと皮膚の症状がきれいになるまではお薬やシャンプー、保湿で全力投球して、症状をなんとかしましょう。初期の投薬としてはステロイドやアポキルがとても優秀です。それはこの2種類に即効性があることと、痒みと皮膚炎のどちらにも効果を発揮してくれるからです。アポキルと同じように副作用の少ない薬であるシクロスポリンには即効性がなく効果が安定してくるのに1ヶ月ほどかかります。それでは遅いですよね。

またアポキルよりもさらに副作用の少ないサイトポイントは、痒みは止めてくれますが皮膚の炎症には関与しません。そのため、犬アトピー性皮膚炎が重度の子では皮膚炎が強く出ているため、サイトポイントでは太刀打ちできないんです。

ですから、重度のアトピー性皮膚炎の初期治療としては、「ステロイドorアポキル」で治療に入った方が効果を実感できると思います。

さらに慢性化した犬アトピー性皮膚炎では、皮膚の脂漏を伴うことが多く見られます。これは皮膚の炎症により皮脂腺が活性化して、皮脂の分泌量が増えるためですが、お薬ではどうしても良くなりません。皮膚のベタつきを落とすためには、シャンプーや入浴が非常に有効です。ただし、ベタついているからと言ってゴシゴシ擦ってしまうと元々はバリア機能が壊れている弱い皮膚ですから、皮膚のコンディションはさらに悪化してしまいます。

そのため、シャンプー前にクレンジングオイルを使って優しくマッサージしながら皮脂を落としたり、入浴で汚れを浮かしてあげるといいでしょう。犬アトピー性皮膚炎のスキンケアについては、後ほどより詳しくご紹介します。

1ヶ月間の集中治療を行い皮膚の症状が改善してきた後は、より副作用の少ないケアで状態の維持ができるようにお薬を変更したり、量を減らしたり、サプリメントを併用するなど試していっていただければと思います。

犬アトピー性皮膚炎と腸活

腸と皮膚の関連については、「犬アトピー性皮膚炎とは?」の項でご説明させていただきましたが、ここでは実際に犬アトピー性皮膚炎の症例を用いた研究をご紹介させていただきます。

報告1

犬アトピー性皮膚炎の犬を対象とした研究で、乳酸菌の一種であるパラカゼイ菌を12週間投与したところ、ステロイドや免疫抑制剤の減薬に成功した(Oshima, Vet Dermatol, 2015)

報告2

正常な犬を対象とした研究で、オリゴ糖の一種であるケストースを8週間投与したところ、糞便内の酪酸および酪酸産生菌の増加が認められた(Ide et al, J Vet Med Sci, 2020)

報告3

犬アトピー性皮膚炎の犬を対象とした研究で、パラカゼイ菌とケストースをミックスして投与したところ、90日後には皮膚の症状、痒みのレベルの両方において改善が見られ、ステロイドの量を減らすことができた(Kawano, Pol J Vet Sci, 2023)

このように現在はお薬を使って皮膚のかゆみや炎症をとった後に腸活を行うことで、その後のお薬の量を減らしたり、場合によっては休薬まで持っていくこともできるケースが増えてきています。

こちらでは当院で実際に使用している乳酸菌のサプリメントをご紹介していますので、気になった方はチェックしてみてください。

 

犬アトピー性皮膚炎とスキンケア

外からのスキンケア

犬アトピー性皮膚炎でポイントになるのはとにかく「保湿」です。特に保湿剤の成分で重要となるのは、みなさん一度は聞いたことのある「セラミド」です。セラミドは皮膚の角層細胞同士の隙間を埋めることで、皮膚を外部刺激から守る主役を担っています。十分なセラミドで満たされている皮膚はバリア機能の働きがよく、外部刺激が加わってもトラブルが起きにくくなっています。人で言うと「潤いがあり、キメが細かい」皮膚ですね。

実際に犬アトピー性皮膚炎の犬では様々なセラミド製剤が使われており、定期的にセラミド含有の保湿剤を使用することでアポキルやステロイドといった痒み止めの内服薬を減薬することができたという報告もあります。

保湿剤を使うポイントは「こまめに使う」「しっかり使う」「季節によって使い分ける」です。

保湿剤を使用する頻度の理想は毎日・1日2回以上です。また使用する保湿剤の推奨量も決まっており、クリームであれば人差し指の第1関節まで、ローションであれば1円玉と同じくらいの大きさで大人の手のひら2枚分の範囲を塗るといいとされています。

季節によって保湿剤の基材を使い分けるのも大切です。夏はわんちゃんも汗をかくのでサラッとした泡で出てくるフォーム材やスプレータイプの保湿剤がおすすめです。逆に冬になるとスプレータイプでは冷たく感じてしまったりすることがあります。乾燥もしやすくなるので、しっとりした乳液タイプのローションや軟膏なども選択肢に入るでしょう。

できれば毎日行っていただきたい保湿ですが、そんなに毎日できないよ!という方におすすめなのは保湿浴です。保湿浴はできるだけ刺激性の少ないもので、かつセラミドが豊富に含まれているものを選んでいただくのがいいと思います。

当院でおすすめしているのは、以下の2製品です。

✅ダーマモイストバス

小さい子やおとなしくできる子はこれでOK!

✅アトピスマイル

大きくて自宅のバスタブじゃないと難しいって子はこれ!

保湿浴の注意点は、

✅入浴時間は5〜15分ほどにする(長く入ると皮膚が柔らかくなりすぎて、逆に水が皮膚から抜けてしまいます)

✅高温の入浴は避ける(皮膚が温まりすぎると痒みが増します)

✅水道水のみの入浴は避ける

犬アトピー性皮膚炎でのスキンケアのポイントは、アレルゲンの除去や汗・皮脂の管理、常在菌の管理です。皮膚がきれいな状態で症状が落ち着いているのであれば、入浴剤のみで十分な効果が期待できます。

それではスキンケアとして広くおすすめされているシャンプーはどうでしょうか?

 

シャンプーは菌が増えている、フケが多い、少しベタつきがあるなど特定の状況があるときに期間限定で使用するのがいいと思います。シャンプー後は必ず保湿を併用しましょう。

そうした状況に合わせたケアを行っていただき症状がおさまってきたら、保湿入浴だけに戻していただくのがBESTです!

ここで、私がおすすめしている皮膚バリア機能に配慮されているシャンプーと日常で使用できる保湿剤をご紹介します。

 

✅ANIDERM モイストシャンプー

クロルヘキシジンと言う抗菌成分が配合されており、マラセチア・ブドウ球菌どちらにも効果が期待できます。アミノ酸系界面活性剤で皮膚への刺激が少なく、セラミド、リピジュアなど多数の保湿成分が配合されています。

 

 

✅ペプチベット

低濃度のクロルヘキシジンが配合されており、犬アトピー性皮膚炎+膿皮症の併発症例に対して非常に有効です。1日2回以上の使用を推奨しています。

内からのスキンケア

体の中からのスキンケアの主役は「必須脂肪酸」です。必須脂肪酸は体内では合成ができない脂質で、外から摂取する必要があります。特に皮膚炎の症例で重要視されるのはω-3脂肪酸とω-6脂肪酸です。

ω-3脂肪酸

代表的な成分:αリノレン酸、EPA、DHA

働き:抗炎症作用、血流改善作用

ω-6脂肪酸

代表的な成分:リノール酸、γリノレン酸、アラキドン酸

働き:皮膚バリア機能改善

リノール酸では2つのフードで試験が行われており、通常のフードよりリノール酸の配合濃度を2.5倍に調整したフードを食べたグループでは、皮膚のセラミド含有量が有意に増加したと報告されています。

このようにシャンプーや保湿だけでなく、しっかりとした皮膚に対する栄養を補給することでも皮膚バリア機能を高めてあげることができます。

まとめ

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

犬アトピー性皮膚炎の病態と診断、治療、スキンケアにいたるまで、イメージはできたでしょうか?

症状の重症度によってやらなければいけない要素は異なりますが、「皮膚やわんちゃんの痒みを完璧に治し切る!」のではなく、「日常生活に支障がないレベルの症状でうまくお付き合いする」を最終的な目標にしていただくと、治療が少し続けやすくなるのではないかと思います。

犬アトピー性皮膚炎を正しく理解して、わんちゃんと健やかな生活が送れるようにしましょう!

 

当院では皮膚科に特化した診療を行っています。診療をご検討されている飼い主様は以下のバナーからサイトをご覧ください。

 

これまで治療した子たちをインスタグラムでも紹介しています!ぜひご覧ください!

 

 

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