知立市・刈谷市・安城市のなんよう動物病院です!当院では一般診療のほか、犬猫の皮膚病治療に力を入れています。
医療と獣医療の違いとして、医療では皮膚科と耳鼻科は分かれていますが、獣医療では皮膚科の先生が耳科も行なっていることが多いです。(獣医療は全科診療なのでそもそもお医者さんとは違うのですが・・・)
今回ご紹介するチワワさんは夜間救急に体調不良を訴えて来院された際に両側の耳より重度の排膿を認めたため、最終的に耳道の切除を選択することになった症例です。
チワワ、9歳齢、雄
もともと別の病院にかかっており、点耳薬をもらってつけていたが改善する様子がない。
現在、外耳炎の診断アルゴリズムとして推奨されているのがPSPP分類という考え方です。これは主因・副因・持続因・素因の4つに外耳炎の原因を分類し、異常がある場合には1つ1つの原因にアプローチして治療をしましょうというものです。
例えば、外耳炎の主因は犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー性皮膚疾患、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患が挙げられます。副因は細菌やマラセチア(酵母様真菌)の増殖があります。ですので、根気よく耳の洗浄をして菌を洗い流してあげても、主因をなんとかしないと再発してしまうわけです。
よく外耳炎の原因として、垂れ耳とか耳の中の毛が多いことが言われますが、これらは素因といって外耳炎になりやすい因子ですが、それだけで外耳炎になることはありません。あくまで外耳炎の発生には主因が必要です。
では今回のチワワさんはどうかというと、両耳が全周性にボコボコと肥厚しており、一部はイボのようになっていました。この時点で、持続因(耳道の形態的変化)があることがわかりましたので、これをなんとかしないといけませんでした。
まずは多量に出ている耳漏(膿)を綺麗にするため、徹底的な洗浄と薬剤感受性試験を行いました。長年点耳薬を使用していたため、予想通り多剤耐性菌になっており効果のある抗生剤はほとんどありませんでした。その中で効く抗生剤をチョイスし、耳道の洗浄を行うことで耳の穴は綺麗にすることができました。ただ、残念ながら耳道を綺麗にして奥を確認した時点で、鼓膜は両方ともなくなっていました。鼓膜の奥、中耳まで炎症が拡がってしまっていたんですね。
次は耳のボコボコをどうするかです。通常であれば、耳道の大部分に形態変化がある場合は全耳道切除が行われます。しかし耳道の手術はかなりの痛みを伴ううえ、このチワワさんは心臓にも病気を抱えていたため、より短時間で処置が終わるビデオオトスコープ下でのボコボコのレーザー蒸散を試みました。
蒸散後は一時的に耳道が開通し、耳漏の排泄もなくなったのですが1ヶ月もするとまた耳道の閉塞が出てきてしまい、レーザー蒸散では完治は困難でした。そのため飼い主様と相談のうえ、全耳道切除を行うことになりました。
詳しい術式については割愛しますが、耳道を綺麗に取ったあとは鼓膜の奥にある空間を十分に洗浄し、感染が残らないようにする必要があります。今回のチワワさんもしっかり洗って排液のためのチューブを設置しました。
全耳道切除で最も多い合併症は顔面神経麻痺です。瞬きがうまくできなかったり、唾液が出続けてしまうようになったりします。多くは一時的なものでゆっくりと改善してきますが、永続的に麻痺が残ってしまう子もいます。このような合併症のリスクを負わなくてもいいように、外耳炎は内科治療でなんとかなる間にうまくコントロールしてあげたいですね